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ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2002年度調査研究報告


■がん患者のリンパ浮腫に対する臨床的手技の確立と普及に関する研究  <2P>

3. 終末期がん患者のケアの実態調査(症例報告)

1. 調査目的
 終末期がん患者のリンパ浮腫のケアについての実態を調査し、その有効性を明らかにする。

2. 調査内容
対象 国立がんセンター東病院外来および入院患者 14名
患者の背景は表2参照
期間 2002年6月1日~2002年11月30日
方法 リンパ浮腫ある入院患者・外来患者に対して、緩和ケア病棟で行っているケアを実施し、それを経時的に記録し、リンパ浮腫に関するケアの有効性を評価する。
調査実施前の準備として、1)リンパ浮腫の査定およびケアの評価表(アセスメントフローチャート)の作成、2)ケア基準の設定、3)ケア技術の統一を行った。ケアに当たる看護師は本研究メンバーでもある緩和ケア病棟勤務者の3名に限定した。
倫理的配慮 調査の主旨を理解して協力の得られた患者を対象とした。また、主旨の説明においては、同意をしない場合においても患者が受ける診療及び看護に影響を及ぼさないことを保証した。ケアの有効性を評価するために、リンパ浮腫となっている部位の写真や計測等のデータを必要とした。その際には個人を特定できないようにすることと計測個所及びその頻度を最少限にした。また、得られたデータは本研究以外に用いないことを約束した。

1)リンパ浮腫の査定およびケアの評価表(アセスメントフローチャート)の作成
(1)アセスメントフローチャート
リンパ浮腫かどうか、またケアの方法の選定をするためにアセスメントフローチャートを作成した。それ以外に、ケアの有効性を判定する基準として、フローチャート以外に浮腫がどの程度出現しているか、またはどの程度ケアによって改善されたかを客観的に評価できるように患側と健側を比較するための測定を行った。

(2)アセスメントフローチャートの項目
それぞれの項目に関して、SOAP形式を用いてアセスメントし、リンパ浮腫を引き起こしているかどうか判定する。 項目は以下のとおりである。

[一般項目]
検査データ: 総蛋白血しょうAlb WBC CRP 腎機能 肝機能 脈拍、血圧
医師記録: 疾患名 治療歴 術式およびリンパ郭清の状況 心肥大の有無 現在の治療状況
[皮膚の観察]
視診: 皮膚の色 暗紫色、赤色、白色透明感の有無、発赤の有無 両下肢・上肢の左右差、水疱形成、リンパ漏 乾燥 ひび割れ
触診: 熱感 硬さ 繊維化 上肢、下肢の伸展 浮腫が起こっている周囲の組織の変化 リンパ節の硬結の有無、浮腫の程度
問診: 疼痛、治療歴、浮腫経過、浮腫により障害を受けたこと
[痛みの有無、性質]
  痛みの程度、種類 張り感、ぴりぴり感、ジンジン、灼熱感
[活動・運動機能の障害の有無と程度]
  浮腫による機能障害 屈曲、伸展


(3)測定方法
測定法には2種類の方法を患者の状況によって選択する。
測定方法A
浮腫が起こっている患側と健側をそれぞれ4cm間隔で円周囲を足背、手背~大腿部の鼠径部、腋窩までを測定し、体積の左右差の値を示し何%浮腫を引き起こしているか導く。
測定方法B
上記の測定方法が患者にとって苦痛または困難な場合は、円周囲の測定を部分的に行い継続的に測定する。
(方法)両四肢の定められた部位の周囲を継続的にメジャーで測定する。
 [1]手足背の周囲径
 [2]手足首の周囲径
 [3]前腕、下腿の最大周囲径
 [4]膝、肘関節周囲径
 [5]肘上5cm、鼠径部下10cm
 [6]腋窩、鼠径部周囲径
測定方法AB共に患側・健側の写真を初回診察時より一定の間隔で撮影しケアの評価資料とした。

(4)アセスメントフローチャートの活用方法
入院患者に関しては診察開始日から3日間から約1週間間隔で観察とアセスメントを行う。判定日の間隔の相違は、リンパ浮腫の状況に合わせて頻回の観察が必要な場合やケアの評価を早急にすることが必要な場合かどうかによって判断される。外来患者は受診の際に観察・測定とアセスメントを行う。

(5)浮腫の分類
[1] リンパ浮腫:典型的なリンパ浮腫症状を伴い、片側のみ腫脹が現れている。
[2] 混合型リンパ浮腫:リンパ浮腫と低蛋白血漿が混在している浮腫
[3] 全身性浮腫:低蛋白血漿や心肥大、肝不全、腎不全などの循環動態の悪化による浮腫
[4] 静脈血栓性の浮腫:血栓による大静脈の血流障害による浮腫

これらのフローチャートからのデータをもとに分析した結果、上記で表した4つのタイプに分類し、リンパ浮腫と判断された[1]と[2]の患者に対して、それぞれ患者のリンパ浮腫の状況に合わせてケアを実施した。

2) ケア基準の設定
具体的なケアの方法は、[1]スキンケア、[2]徒手リンパドレナージ、[3]圧迫療法または圧迫包帯法、[4]運動療法として、患者のリンパ浮腫の状況によって、これらを単一または複合的に用いた。

スキンケア: リンパ浮腫を引き起こしている皮膚に対して、感染予防や二次感染のために皮膚の保護を行うため、ワセリン、ザーネ、流動パラフィン+ワセリン(1対1)を塗布し、患者の好みに合わせていずれかの皮膚保護剤を活用する。
また、リンパ漏、皮膚転移、腫瘍による自壊を認める場合、医師の指示のもとアズノール軟膏や爪白癬の場合はマイコスポール軟膏等を使用する。
徒手リンパドレナージ: イギリスやドイツで行っているリンパ浮腫に対するドレナージ方法に基づいて、2種類のマッサージを行なう。ひとつは患者自身や家族がおこなうことが可能な簡易的リンパドレナージ(SLD)とリンパ浮腫のスペシャリストが行なうマニュアルリンパドレナージ(MLD)である。
リンパ還流の障害を受けている部分を把握したうえで、ドレナージの手順を決定していく
圧迫療法: 圧迫療法には、圧迫包帯法とスリーブ・ストッキングを使った圧迫法の2つの方法がある。
圧迫包帯法には筒状包帯(商品名:チュービコット)綿包帯、メディ(ドイツ製)、またはジョブスト(ドイツ製)のリンパ浮腫用の圧迫包帯を用い、スキンケアとマッサージの終了後、ドイツ式の包帯法の手順にそって、実施する。また、測定方法Aで行なった結果、患側の体積が健側の20%以上の場合にも圧迫包帯を活用する。
次に、測定により左右差の体積が20%以下になった場合は、メディのスリーブやストッキング(下着のようになっている圧迫が可能なサポートタイプのもの)の着用が可能であることを説明する。
但し、スリーブ等の使用にあたっては、費用が自己負担となるために患者の意思決定が優先される。
メディやジョブストの圧迫包帯法で苦痛や活動制限がある場合には、それらの代用として筒状包帯(商品名:チュービッコット)を活用する。
運動療法: 患肢の可動域に制限がない場合や、苦痛を伴わない場合には、上肢・下肢屈伸運動を進める。
上肢の運動としては、肩まわし、または髪をとく動作や壁に向かって手を挙上することを、継続的に行う。


3. 結果
 今回、14症例のリンパ浮腫を併発したがん患者のケアを実施した。対象者は、緩和ケア外来通院4名、緩和ケア病棟入院8名、他病棟入院(コンサルテーション)2名であった。
 リンパ浮腫の中心部位は、上肢6名、下肢7名、顔面1名であり、ケアを実施した患者は14名中12名であった。これらの患者に対してスキンケア、リンパドレナージ、圧迫包帯法、圧迫療法、運動療法を中心としたケアを実施した。(表3参照
 結果から、浮腫の軽減が図られたのは6名で、効果が得られなかったのは8名であった。
 ケアにより快の感覚を得られたかという点においては、ケアを受けた12名全員が心地よさを認めている。リンパドレナージや圧迫包帯法といったケアの介入によって、浮腫や皮膚の硬さが軽減したことによる違和感の解消やリンパドレナージによる快の感覚を得ることができた。少数ではあるが、リンパ浮腫が生じて1週間以内の患者には浮腫の軽減が明らかであった。このことからも、早期に介入することの重要性が示唆される。数年前までは、終末期におけるリンパ浮腫は、発見されても適切なケアがなされなかったために悪化するばかりであったが、今日では改善までに至らなくても現状を維持し続けることや苦痛の緩和が図られるようになった点で臨床としての進歩を認める。(表4参照
 リンパ浮腫は患者に身体のみならず精神的なダメージをも与えている。浮腫があることは動作が困難になるということだけでなく、外出を避けたり、衣服の選択肢が狭まるなど生活の楽しみを奪われる要因となっている。そして気持ちが落ち込んだまま、あるいは怒りをもったままでいることにもなる。
 今回の12名においては、ケアを実施したことでリンパ浮腫の症状悪化を招いたものはない。それだけでなく、医療者からの適切なアドバイスや対応が受けられずに「仕方がない」「あきらめている」という感情をも開放させられたことにも注目したい。
 また、看護師や家族のリンパドレナージやスキンケアによってスキンシップによる安心感を得ることのできたケースなどもあり、浮腫は軽減できなくても苦痛の緩和が図られるということにおいては、終末期におけるケアの意義が見出せる。

4. 考察
 終末期においてリンパ浮腫のケアを実施することは、浮腫の改善、身体的・精神的苦痛症状の緩和を図ることができると考えられ、リンパ浮腫のケアは看護として必須である。しかし、リンパ浮腫へのケアは不十分な状況である。充分にケアが行われない要因の一つには、看護の現場においてはリンパ浮腫に関する情報、知識、技術、弾力包帯をはじめとする資源の不足が認識されていないことに起因すると考える。充分な情報と知識、技術などを啓蒙することにより、看護職者の認識は高まりをみせる。看護職者の自覚が看護を充実させ、一人ひとりのリンパ浮腫の看護実践が変化作用者としての働きとなって、看護実践現場において変化をもたらすと確信している。
 資源においては、現在日本で購入できない材料や輸入品のコストも問題であり、今後安価な製品開発が求められる。


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