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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第5章■ 傷み以外の身体的諸症状のマネジメント

2.呼吸器の症状
1)呼吸困難
■診 断
 呼吸困難とは、呼吸に伴う不快な主観的感覚である。患者は「息が切れる」「呼吸が苦しい」と訴える。
 呼吸困難は脳幹の中枢を介して起こる。中枢を刺激するのは延髄、頚動脈球、呼吸筋、肺などに存在する受容体である。
 呼吸困難は、いくつかの原因が重なって起こることが多い(表5-4)
原因が解決できることもあるが、複数の原因のすべてを取り除くのはしばしば困難である。

 呼吸困難の診断では次の点に注意する。

   患者の現病歴に診断の鍵となることはないか?
   患者は不安に陥っているか?
   運動負荷により呼吸困難は増強するか?
   チアノーゼ、貧血、全身衰弱はみられるか?
   呼吸困難は突然現れたか?
   呼吸困難はときどき起こるのか?
   頸部の静脈圧上昇、奔馬性調律の心雑音はあるか?

 これらとあわせて胸部単純撮影、ヘモグロビン値、パルスオキシメトリー、心電図などの検査所見を検討する

表5-4 呼吸困難の原因
●がんに関連した原因
 気管支の閉塞、狭窄
 がんの肺内転移、浸潤
 がん性リンパ管症
 上大静脈閉塞
 胸水貯留
 心嚢水貯留

●治療に関連した原因
 気胸
 肺切除術
 がん化学療法後の肺線維化
 放射線照射後の肺線維化
 (放射線肺炎)

●病状に関連した原因
 痛み
 貧血
 全身衰弱
 腹水
 肝腫大
 肺塞栓
 呼吸器感染症
 急性の不安

●その他の原因
 喘息
 肺気腫
 左心不全



■治 療
原因の治療:
 呼吸困難への対応では、まず原因が取り除けるかどうか検討する。例えば、腫瘍による気管支閉塞ならば、放射線照射による閉塞解除を検討する。次に、痛みのマネジメントが重要である。痛みは呼吸困難を増強させて不安の原因ともなり、不安は呼吸困難を増強させる。

薬以外の治療法:
 「適切な説明」と「不安の除去」が重要である。
 呼吸困難それ自体は危険でないと患者に説明し、それによって不安を緩和する。呼吸困難は、閉じこめられているという感覚により増悪する。したがって、ベッドの周りを広くし、窓を開けたり、扇風機を使用して空気の流れをつくる。口すぼめ呼吸など簡単な呼吸理学療法を教えることでも不安は減少する。

薬による治療法:
MST(モルヒネ+ステロイド+トランキライザー)という組み合わせが有効である。

モルヒネ
 モルヒネは呼吸中枢の反応を鈍くし、呼吸数を減らす結果、呼吸困難を緩和する。塩酸モルヒネ3~5mg/回 4~6時間ごとの経口投与を開始し、呼吸困難が緩和する量へと増量調整する。増量は20~30%の割合で行う。痛みのマネジメントに用いるモルヒネ量の1/2量で効果が得られることが多い。痛みのマネジメントにモルヒネを投与中の場合は30~50%の割合で増量する。

コルチコステロイド
 腫瘍による気管支の圧迫やがん性リンパ管症などの場合にコルチコステロイドが有効なことがある。デキサメタゾンまたはベタメタゾン4~8mg/日、あるいはプレドニゾロン30~60mg/日を経口投与、静脈内注射または皮下注射する。

抗不安薬
 ベンゾジアゼピン系の薬は、呼吸困難に伴う不安を緩和する。アルプラゾラム0.4mg、エチゾラム0.5mg、ロラゼパム0.5mg、あるいはジアゼパム2~5mgの就寝前1回投与で開始する。これらに効果があると、昼間の使用も患者に歓迎される。

2)咳
■診 断
 咳は気管、気管支から痰や分泌物等を排出するために強制的に起こる呼気である。 
 気道にある受容体が粘液、異物、乾燥、気管支収縮等の刺激によって活性化すると、咳反射が起こる。
 がん患者に起こる咳の原因は、肺の腫瘍、がん性リンパ管症、脱水、呼吸器感染、乾燥、肺気腫、左心不全などである。次の3つに分けてとらえると実際的である。

   痰を喀出できる患者の湿性の咳(Aと略)
   痰を喀出できない患者の湿性の咳(Bと略)
   乾性の咳(Cと略)

■治 療
原因の治療:
 可能なら原因の治療を行う。例えば、感染に対する抗生物質、心不全に対する利尿薬。

薬以外の治療法:
ネブライザー
 喀痰溶解薬を入れた生理食塩水を使用して粘調な痰を軟らかくする
     →(A)の場合。
理学療法
 呼吸訓練や痰を出すための体位ドレナージなどを指導する
     →(A)の場合。
痰の吸引
 上気道にある粘調な痰を除去するには有効→(B)の場合。

薬による治療法:
オピオイド
 モルヒネとコデインは咳中枢に直接作用する。モルヒネを処方されている患者では、コデインを追加するのではなく、モルヒネを増量する。デキストロメトルファンは30~60mg/日を経口投与する      →(A)(B)(C)の場合。

気管支拡張薬
 サルブタモール、テオフィリン等の気管支拡張薬は咳を引き起こす刺激となる気管支収縮を緩和する →(A)(C)の場合。

3)しゃっくり(吃逆)
■診 断
 しゃっくり(吃逆)は横隔膜と肋間筋のけいれんに続いて、閉鎖した声帯に抵抗する吸気が起こる現象である。終末期がん患者のしゃっくりの原因として多いのは胃の膨満である。膨満した胃が迷走神経を刺激する。次に多いのは腫瘍による横隔神経の刺激である。

■治 療
薬以外の治療法:
 コップの飲む側と反対側の縁に口をつけて冷水を飲む。
 綿球で軟口蓋をマッサージする。
 息こらえ。
 顔に紙袋をあてて呼吸する。

薬による治療法:
 ジメチコン含有制酸薬、シテイ(柿蔕)、メトクロプラミドを4~8時間ごとに経口投与。
 バクロフェン10mg/回、頓用または1日3回。
 クロルプロマジンは上記の薬が無効なとき使用する。10~25mg/回を6時間ごとに経口投与(または筋肉内注射)。

4)死前喘鳴(デス・ラットル)
 死前喘鳴(デス・ラットル)は、気道内に分泌物がたまり、その振動によって下咽頭から喉頭にかけてゼイゼイと音が出る現象である。

■診 断
 死前喘鳴は、非常に衰弱し、死が切迫している患者にみられる。この時期には、喘鳴は患者にとって苦痛になっていないことが多い。しかし家族など周囲の人々にとっては苦痛となることが多い。

■治 療
 治療の主目標は家族など周囲の人々に与える苦痛の除去である。

薬以外の治療法:
 患者は苦しさを感じていないことを家族など周囲の人々に説明する。
そのうえで、体位変換により分泌物の流出を促す。できれば、セミファーラー位をとらせる。
 分泌物の吸引は困難なことが多く、かえって患者にとって苦痛となる。

薬による治療:
 臭化水素酸スコポラミンにより気道内分泌を抑制する。
注射用製剤0.15~0.25mg/回の1日1~4回の舌下投与。頻回投与が必要なら0.5~2.0mg/日を持続皮下注入する。肺炎や左心不全の場合には効果がないことが多い。

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