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がん緩和ケアに関するマニュアル
■第5章■ 傷み以外の身体的諸症状のマネジメント

I.基本原則


1.症状の診断(アセスメント)

 診断は症状マネジメントの戦略を立てるための基盤である。症状マネジメントの優先順位を念頭に、注意深い問診と診察、負担の少ない検査を行う。
 また、患者が話すことを注意深く聞き、それを信じる。
・症状の原因と予測される病態は何か?
・症状が悪化する因子、軽減する因子は何か?
・患者が心配している日常生活への影響などの問題点は?
2.体制作りとコミュニケーションの維持
・チームワーク
 家族と医療従事者の間で患者を中心においた協力体制を作る。
・マネジメントの戦略を立て、患者と家族に説明する。
 身体的側面と心理的側面とに配慮し、患者の意見を反映した個別的な戦略を立てる。
 在宅でも行えるよう治療法を工夫し、治療法について患者と家族を教育する。
・病状や症状の変化を予期したうえで備える。
 原因や治療法の選択肢について簡潔、明瞭に患者に説明する。疑問にはいつでも答えることも伝える。どんな問題が発生しうるのか、それにどう対処したらよいか、家族にも知っておいてもらう。
3.マネジメントの目標設定
・諸症状の完全消失を目指す。
・完全消失が困難となった場合、症状をできる限り緩和し、患者が絶望感から抜け出し、克服感や自己制御感を持て、日常生活上の自律性ができるだけ長く維持されることを目指す。
4.治療法

 薬による治療法と薬以外の治療法を組み合わせて治療を行う。
1)薬以外の治療法:
・説明を十分行い、安心感を与える。
・心理的負担を軽減するために、支持的精神療法などを行う。
・緩和目的の放射線照射などを行う。

2)薬による治療法:
 次の原則を守った薬の投与が治療法の主役である。
・できる限り経口的に。
・定期的に規則正しく。
・患者ごとの個別的な投与量で。
・処方内容は簡潔に。

注)本章に示す薬の中には、保険適応外の使用となる薬がある。保険適応の薬を適切に使用しても十分な効果が得られない場合に備えての記載であることに留意されたい。
II.症状マネジメントの実際

1.消化器の症状
1)食欲不振
■診 断
 食欲不振の原因を表5-1に示す。死に向かう過程では食欲不振が起こるのが自然なことと認識しておく。患者にとっては食欲があることが健康の証であり、家族や友人にとっては食べさせることが患者のケアに役立つという思いがあることを理解しておく。

■治 療
原因の治療:
 複数の原因が重なっていることが多く、すべての原因を取り除くことは容易ではないが、原因の除去が可能ならば、優先して実施する。例えば、便秘による腹部膨満感や嘔気が原因であれば、便秘の治療が食欲を改善する。

薬以外の治療法:
 食事について具体的に助言する。例えば、栄養価よりも患者の嗜好を優先させること、食事の量にこだわらないこと、消化がよく口あたりのよい食べもの(めん類、酢のもの、果物など)を用意することなどである(第7章を参照)。

薬による治療法:
 デキサメタゾンあるいはベタメタゾン2~4mg/日、またはプレドニゾロン10~30mg/日を1週間投与しながら効果をみる。食欲が改善すれば2週目以降も継続し、改善がなければ中止する。

表5-1 食欲不振の原因
●食事に関連した原因
 食べものの臭い
 調理の臭い
 多すぎる盛りつけ
 食事の強制
 好みにあわない食事
 まずいと感じる味つけ
 歯の不具合
●病状に関連した原因
 嘔気、胃内容物の停滞
 口腔内、咽頭のびらんや炎症
 脱水、痛み、倦怠感、便秘
 血液生化学的異常
 高カルシウム血症
 低ナトリウム血症
 臓器不全
 腎不全・肝不全
 敗血症

●治療に関連した原因
 薬
 放射線照射
 がん化学療法

●その他の原因
 不安・抑うつ

2)便 秘
■診 断
 便秘とは排便の回数が減少した状態である。便秘への早期対応を怠ると、硬便となり、排出が困難で苦痛を伴い、しばしば水様便を伴う宿便に進行する。便秘には可逆的な原因がいくつも重なっていることが多い(表5-2)。進行がん患者では自律神経の機能異常により腸の蠕動運動が低下していたり、排便反射が低下したりしているので便秘が起こりやすい。
 排便状態を監視するとともに、直腸診や腹部単純撮影で排便状況や宿便の有無を確認する。

■治 療
薬以外の治療法:
 全身状態が良い場合は、適度の運動を勧め、繊維成分の多い食品や水分の摂取を増やす。全身状態が悪い場合は、室内便器の使用を考慮するが、無理強いはしない。

表5-2 便秘の原因
●がんに関連した原因
 直接的:
  消化管閉塞
  腰仙部の脊髄圧迫
  馬尾神経、骨盤神経叢の圧迫
  高カルシウム血症

 間接的:
  食事摂取量の減少
  残渣の少ない食べもの
  脱水
  衰弱
  体動の減少
  せん妄、抑うつ
  トイレに行けないこと
●薬
 オピオイド鎮痛薬
 抗コリン作動薬
 利尿薬
 抗けいれん薬
 鉄剤
 抗高血圧薬
 ビンクリスチン

●その他
 糖尿病
 甲状腺機能低下症
 低カリウム血症

薬による治療法:
緩下薬
「経口投与」が原則である。
「定期的に規則正しく」1日1~2回投与する。頓用処方は避ける。
「患者ごとに個別的な量」すなわち腹痛や下痢、便失禁などにつながらない量へと調整する。
「処方内容を簡潔に」するため、緩下薬は1種類で開始し十分量へと調整し、これが効果不十分な場合に2剤目を追加処方する。
 まず刺激性緩下薬(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど)、次に浸透圧性緩下薬(ラクツロース)や塩類緩下薬(酸化マグネシウムなど)を追加処方する。

3)嘔気、嘔吐
■診 断
 嘔気と嘔吐は、嘔吐中枢が次のいずれかの経路で活性化されて起こる。

   大脳皮質(Aと略)
   前庭器官(Bと略)
   化学受容体トリガーゾーン(CTZ) (Cと略)
   迷走神経(Dと略)
   嘔吐中枢への直接刺激(Eと略)

 大脳皮質由来の嘔気と嘔吐(A)としては、がん化学療法に対する「予期的嘔吐」が代表的である。前庭器官由来のもの(B)としては、めまいに伴う嘔気と嘔吐、CTZ由来のもの(C)としてはオピオイド鎮痛薬による嘔気と嘔吐がある。腹部臓器からは迷走神経(D)を介して刺激が嘔吐中枢に伝わる。

 嘔気と嘔吐の原因は様々であり、進行がん患者には複数の原因が重なっていることが多い(表5-3)。嘔気と嘔吐の原因の診断では、まず頻度の高い原因、例えば、胃内容物の停滞、消化管閉塞、オピオイド鎮痛薬などの薬、高カルシウム血症、腎不全などによる生化学的異常を考え、該当するものがなければ、頭蓋内圧亢進の有無を確かめる。

表5-3 嘔気と嘔吐の原因
●環境に関連した原因
 嘔気誘発因子 (A)
  いやな臭い
  多すぎる食べ物
  口にあわない食べもの
 不十分な口腔内ケア (A,D)

●病状に関連した原因
 便秘 (D)
 胃の刺激 (D)
  胃の膨満
  胃の中の血液
  胃炎
 消化器疾患 (C,D)
 腎不全 (C)

●がんに特異的な原因
 消化管閉塞 (D)
 頭蓋内腫瘍 (E)
  第8脳神経の刺激
 幽門の閉塞 (D)
 高カルシウム血症 (C)

●治療に関連した原因
 がん化学療法 (C,D)
 腹部に対する放射線照射 (D)
 薬 (C,D)
  抗生物質
  アスピリン
  コルチコステロイド
  ジゴキシン
  鉄剤
  非ステロイド性抗炎症薬
  オピオイド鎮痛薬

●その他の原因
 急性痛 (D)
 感染 (C,E)
  急性
  全身性
 感情面の不快感 (A)
 不安 (A)
 前庭器官の炎症 (B)
 片頭痛 (D)
 糖尿病性ケトーシス (C)
 電解質・代謝異常(C)

注:表のA~Eは本文中の記号と同じで、各原因に関連した機序を示す。

■治 療
薬以外の治療法:
 患者の病室の換気を良くし、臭いなど嘔気を誘う因子をなくす。口腔内が不潔だと嘔気を悪化させるので、口腔内ケアを定期的に行う。食事は、少量をゆっくりとるよう勧める。嘔吐が頻回の場合は輸液を考慮する。

薬による治療法:
 制吐目的の薬は原則として経口投与とするが、1日3回以上嘔吐する場合や薬の服用後すぐ嘔吐する場合は非経口投与とする。制吐目的の 薬は、作用機序の特性を十分理解して使用する。

抗精神病薬:
 プロクロルペラジン、ハロペリドール →CTZに作用。
抗ヒスタミン薬、抗コリン作動性薬:
 ヒドロキシジン、ジメンヒドリナート、臭化水素酸スコポラミン
       →前庭神経系への作用。
蠕動促進薬:
 メトクロプラミド、ドンペリドン
       →消化管の蠕動を促進

4)消化管閉塞
■診 断
 消化管閉塞の原因は3つに分けられる:
  (1)腸管内病変による物理的な閉塞。
  (2)近接病変による腸管の圧迫。
  (3)がんの浸潤、線維化、腫瘍随伴症候群に伴う交感神経障害による腸管の蠕動異常。
重度の便秘は消化管閉塞の原因となり、増悪因子ともなる。

 診断の手がかりとなる典型的な症状は:
   急性の嘔気と嘔吐
   便秘
   急性の疝痛と持続性の腹痛
   腹部膨満
   腹鳴あるいは蠕動音の低下

 消化管のどのレベルに閉塞があるかによって症状に差がある。胃流出路および小腸近位部の閉塞では、頻回の嘔吐、胃部の圧痛と膨隆、鼓腸を伴わない便秘、小腸遠位部および大腸の閉塞では、持続性の痛み、小腸の疝痛、鼓腸を伴う便秘と貯留した糞便の液状化に伴う激しい下痢、腹鳴などがみられる。診察では、腹部の触診、聴診とともに直腸指診も行う。手術の既往がある場合は、手術記録を参考にする。


腹部単純撮影は、次の点で参考になる。
 閉塞の有無と閉塞のレベル
 宿便の有無
 腹腔内のフリーエアの有無

■治 療
手 術:
 終末期がん患者で手術適応があることは少ないが、適応決定には次の点を考慮する。

全身状態、生命予後
患者の手術に対する希望の有無
腹水と腹膜播種の程度
広範囲な腹部への放射線照射の有無

消化液の排液:
 経鼻的胃管(長期には行わない)
 胃内容排出用胃瘻

薬による治療:
 胃流出路および小腸近位部の閉塞の場合、完全に嘔吐をなくすことは難しいので、治療目標は、嘔吐回数を減らすこととする。小腸遠位部および大腸の場合、治療目標は嘔気、嘔吐をなくして水分や少量の食事の摂取を可能にすることとする。

制吐薬:
 疝痛がなく腸内ガスがまだ通過している場合の第1選択は、メトクロプラミド(内服ならば40~60mg/日、持続皮下注入、持続静脈内注入も可能)である。
 強い疝痛がある場合には、鎮痙薬として臭化ブチルスコポラミン(持続皮下注入で60~120mg/日)、分泌抑制薬として酢酸オクトレオチド(持続皮下注入で300μg/日から開始し600μg/日まで)を使用する。

 酢酸オクトレオチド(サンドスタチン®)は、消化管ホルモン全体の分泌抑制効果を持つ。オクトレオチドは、臭化ブチルスコポラミンにくらべて効果が早く現れる。オクトレオチドは消化管ホルモンの分泌を抑制して腸内容物を減少させることにより腸の膨張を軽減し、疝痛と嘔吐も改善させる。

 そのほかハロペリドール(内服ならば0.75~5.0mg/日、持続皮下注入も可能)、クロルプロマジン(内服ならば12.5~50mg/日)が有効なことがある。

鎮痛薬:
 オピオイド鎮痛薬の持続皮下注入(例えば、モルヒネを10~30mg/日で開始)


コルチコステロイド
 コルチコステロイドは消化管閉塞部の炎症性浮腫を減少させて狭窄部を広げる効果があり、嘔気にも効果がある。デキサメタゾンまたはベタメサゾン(静脈内または皮下注射で8~12mg/日で5日間、有効な場合2~4mg/日を継続)、または同効量のプレドニゾロンを用いる。


輸 液:
 水分や栄養は可能な限り経口摂取とするが、完全閉塞で嘔気と嘔吐が激しいときは、輸液を考慮する。輸液実施の目安は、生命予後が月単位と見込めるときは維持輸液か高カロリー輸液、週単位のときは維持輸液、日単位のときには輸液はしない。

5)腹水と腹部膨満感
■診 断
 腹水に伴う症状は、腹部膨満感、腹部不快感、早期の飽食感などである。原因は腫瘍の腹膜播種が一般的であるが、低アルブミン血症、門脈圧亢進症などが原因となることがある。

■治 療
 薬による治療法:
  利尿薬
   スピロノラクトン50~200mg/日とフロセミド20~80mg/日の併用(経口投与)。

 薬以外の治療法:
  腹腔穿刺
   利尿薬によるコントロールが困難となった場合、腹腔穿刺を行う(超音波ガイド下での穿刺が望ましい)。1回の排液量は2,000ml以下とする。

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