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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2001年度調査研究報告


■ホスピス・緩和ケア病棟の質の評価方法に関する報告
 ― Yorkshire Hospice Peer Reviewに関する報告 ―
 国立看護大学校
 丸口 ミサエ


I. 調査目的

 日本において、ホスピス・緩和ケア病棟が急速に増加しているのは、施設基準を満たせば都道府県から認可を受けることができるという制度になっていることが一因と考えられる。この制度は1990年に、ホスピスが日本に広まり、根づいていくために経済的な裏付けとなるように、厚生省が定額医療制度として緩和ケア病棟入院料を定めたことであり、1994年10月からは、都道府県が承認することになっている。この定額の入院料を得るためには、一定の施設基準を整えて申請すれば、認可が受けられることになっている。しかし、一旦認可を受けた施設は、その後、どのような運営がなされているのか、ケアの質がどのようになっているのかについては全く問われることはない。これについて、調査する機関もない。ここ数年で、ホスピス・緩和ケア病棟が急速に増加してきて、施設の内外からケアの質、運営についての問題が出てきている。施設の評価の一つとして、1999年に全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会で遺族の満足度調査を行ったのが初めてである。しかし、まだ、ケアの質まで、踏み込んだ評価はされてない。全国ホスピス・緩和ケア連絡協議会でも、現在、評価については検討中である。
 2001年3月に、ホスピスケア研究会で、Yorkshire Hospice Peer Review についての、プロジェクト・コーデェネーターである、Miss Liz Bakerの講演を聞き、質の評価システムとしてだけでなく、ホスピス・緩和ケア病棟を運営していく上での指針にもなるものだと考え、このシステムについて学び、日本への導入について検討したいと考えた。

II. 調査方法

1.監査ツールの閲覧に関してThe Yorkshire Peer Review Audit Project に申請し、以下の1)、2)のどちらかの条件で監査ツールを一定の値段で譲るという許可を得た。

1)イギリスから講師を招いてPeer Review とAudit Toolについての研修を受ける。
2)研修費を払って、実際、監査が行われているのを見学し研修を受ける。今回は、次年度イギリスでのAudit の実際を見学する選択をした。

2.Audit Tool全体について研究メンバーで検討した。

III. 調査結果

A. Yorkshire Hospice Peer Review の概要

1.Yorkshire Hospice Peer Review Audit Project とは
 イギリスにおいては、1999年に成立した医療法において、「すべての病院において、質を維持する、もしくは質を改善すること」が法的な義務として課させられるようになった。それに先立って、1989年に保健省は「The White Paper Working for Patients」においてどの保健区も1991年までに監査システムを持たなければならないとし、1992年にStanding Medical Advisory Committeeは報告書の中で「ホスピスは、評価を受けるべきである」とし、ホスピスは、根拠もなく質が保たれているといことは言えなくなり、コスト効果、成果の測定が実証されなければならなくなった。1994年にヨークシャーにあるホスピスはピアー・レヴュー監査をするための委員会を学際的なメンバーで組織して、監査ツールの作成にとりかかった。ヨークシャーにある11のホスピスで発案し、実施している。

2.Yorkshire Hospice Peer Review の組織
 慈善団体として登録されている。監査ファシリテーターのみは、雇われており、監査員は各ホスピスから選出されている。
 各ホスピスから選出された運営グループ(4名)と実行グループ(4名、監査ファシリテーターはここに入る)のメンバーで運営されている。

3.ピアー・レヴュー計画の目的
 ヨークシャーにある11のホスピスのスタンダードと質を向上させることである。
1)評価や認可にふさわしい監査システムを作り、それを使用することによって、スタッフ、ホスピスに関わりのある人、一般や専門の緩和ケアを提供している人の教育、訓練をし、成長を促進すること。
2)情報の普及、トレーニング、活発なネットワーク、そして監査ツールと実行状況を他のホスピスや有志でサービスを提供している人が利用できるようにすることで、最善の実践を共有すること。

4.Yorkshire Hospice Peer Review Audit Toolの構成
 基準は、戦略的、管理的、組織的、臨床的問題をカバーし、ドナベディアンの構造、プロセス、成果の枠組みと、マクスウェルの6つの質の側面を使用している。(図1)ケアに対する複数の専門にまたがる全体的アプローチ、臨床管理法、研究、監査、教育、総合的な専門家による緩和ケアサービスを形作るあらゆる要素の相互作用それぞれに関わる成果を反映し、組み込むように作られている。基準は、契約成果、コミュニケーション、全人的ケア、危機管理、質、教育、トレーニングと発展、環境の7つのカテゴリーに分けられている。それらが、戦略的モジュール、臨床モジュール、組織モジュールの3部構成として監査ツールが成り立っている。

1)臨床モジュール
 患者の紹介から死にいたるまで、またその後の遺族ケアまで含めたターミナルケアをすべてカバーするように作られている。患者の紹介、相談に対する対応、その後の経過が患者に知らされているか、情報提供に関すること、地域との連携、患者のケア、コミュニケーション、実習・研修の受け入れと患者への配慮、薬剤管理など60のスタンダードに沿って細部に渡っている。
2)戦略的モジュール
 管理者が、経営、管理、実施していることを評価しているかということを、危機管理、教育、地域との連携、設備の問題など54のスタンダードに沿ってチェックするようになっている。
3)組織モジュール
 危機管理、衛生管理、食事への対応、接遇、全体の質などについて22のスタンダードについてチェックするようになっている。

図1 The Yorkshire Hospice Peer Review (文献1より引用)
Maxwell Structure(human and physical resources) Process(diagnostic treatment and care) Outcome(effect of structures and processes) %
Effectiveness of service
(doing the right things)
      40%
Acceptability of service       13%
Efficiency(doing things right while making the best use of resourees)       7%
Access to services by users       10%
Faeirness of service distribtion       12%
Relevance of service to local users       18%
% 40% 36% 24%  

5.評価
 評価は、1つの基準についてと、ホスピスの評価の2つの評価を行う。
 それぞれの基準について、監査の認定に、「必要」、「必要不可欠」、「重要」というように重みづけをしてある。それぞれの基準の達成度については、1つの基準に対して細項目があり、まず、それぞれが「出来ている」か「出来ていないか」という評価を行う。そして1つの基準が、100%を基準にして、どのくらいできているか点数をつけて採点する。評価は、「卓越している:100%」「すばらしい:80~99%」「基準を満たしている:60~79%」「基準以下:60%未満」とする。
 そして、ホスピス全体が決められたレベルを達成するには、それぞれ重みづけをしたスタンダードのカテゴリーで一定の得点となることが要求される。その必要な得点は、「必要」というカテゴリーでは、ホスピスのすべての部署でその結果が80%かそれ以上である、「必要不可欠」では、ホスピスのすべての部署で60%以上である、「重要」では、ホスピスの半分の部署が60%以上であること、とされている。


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