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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2004年度調査研究報告


■がん患者のリンパ浮腫に対する臨床的手技の確立と普及に関する研究
 ━進行がん患者のリンパ浮腫に対するケアのガイドラインの作成
 国立がんセンター東病院緩和ケア病棟看護師長
 吉田 扶美代

日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団助成研究「がん患者のリンパ浮腫に対する臨床的手技の確立と普及に関する研究」は、平成14年度に始まり、平成16年度で終了となる。
平成14年度は、わが国における終末期がん患者のリンパ浮腫に対するケアの現状と問題点を明らかにすることを目的に研究をすすめ、リンパ浮腫に対して適切なケアが行われていない実態を明らかにし、その背景にある要因と今後の課題について報告した。
平成15年度は進行がん患者のリンパ浮腫に対するケアの有効性を検証すること     を目的とし、臨床実践を通じて複合理学療法(Complex Decongestive Physical therapy以下CDPという。)の有効性と限界を明らかにした。
平成16年度はこれまでの臨床実践結果に基づき、進行がん患者のリンパ浮腫に対するケアのガイドラインを作成することを目的に研究をすすめた。
このガイドラインは、終末期がん患者のリンパ浮腫に焦点をあてて作成していることと、臨床実践を通じて得られた知見を反映させているところに特徴があり、ホスピス・緩和ケアの領域で活用できるものと考えている。
Iガイドラインの作成の背景
本研究の初年度に行った「わが国における終末期がん患者のリンパ浮腫に対するケアの実態調査」の結果では、多くの看護師が、リンパ浮腫に対する知識と技術を習得したいと考え、そのための研修や教材を求めていることが明確になった。当時は、リンパ浮腫の病態からケアの実際までを網羅した日本語版の文献もなく臨床に携わるものにとって、リンパ浮腫のケアは困難なものであった。
そこで我々は、臨床で浮腫のある患者に出会った時にどのような手順を踏んで介入すればよいかという疑問に答えられるガイドラインの普及により、リンパ浮腫のケアの改善を図りたいと考えた。
ガイドラインの構想から2年を経過し、その間に日本語版の文献も出版され、研修会等にも多職種かつ、多数の参加が得られ関心の高まりを感じ、リンパ浮腫を取り巻く状況が急速に変化していると実感している。
リンパ浮腫の刊行物が存在する今日に、さらにガイドラインを作成する意味は、ベッドサイドケアのハンドブックとして使用するために、目的に合わせてより簡便に情報が得られるようにすることや手元で見ることができるコンパクトさが必要なためである。
IIガイドライン作成手順
ガイドライン作成手順は、1)目的の明確化、2)リンパ浮腫ケアの現状の把握と問題点の抽出、3)疑問点に対する文献検索、4)臨床実践データの分析、5)ガイドラインの作成、とした。
今年度は、文献検索と臨床実践データの分析に取り組み、ガイドラインとして纏めた。
III疑問点に対する文献検索
文献検索を通じて明確にしようとしたことは、進行がん患者のリンパ浮腫に対してのケアと予後との関連についてである。つまり、複合理学療法はどのような病態まで可能か?
中止理由には何があるのか?何らかの改善の可能性はあるのか?という疑問を掲げ、文献を検討した。医学中央雑誌、ProQuestにより終末期がん患者のリンパ浮腫に対するケアについて文献検索したが、我々の疑問を文献から解決することはできなかった。
IV臨床実践
目的
進行がん患者のリンパ浮腫に対するCDPの有効性を予後との関連において明らかにする。分析の結果を基に終末期がん患者のリンパ浮腫のケアのガイドラインに反映させる。
方法
対象者 CDPを実施した患者は33名であったが、病状の悪化や通院の中断等により継続した観察ができなかった患者がいたために、CDPの介入開始から死亡までの期間を継続的に観察できた患者を本研究の対象とした。
国立がんセンター東病院の外来および入院患者15名。その内訳は、男性8名、女性7名、平均年齢60歳(46~85歳)リンパ浮腫を伴う病期Ⅲ・Ⅳの患者を対象とした。
期間 2002年6月1日~2004年11月30日
方法
リンパ浮腫のある病期Ⅲ・Ⅳの入院、および外来患者を対象にリンパ浮腫に対するケアを実施した。
CDPを行った患者のケア記録と診療録から、死亡前3日、1週、2週、3週、4週、2ヶ月の各時点のCDPの実施の有無と、変更の内容・理由、感染の有無、浮腫のグレード、パフォーマンスステイタス(PS)の項目について分析した。
得られた結果をもとにガイドラインを作成した。
リンパ浮腫のケアにあたる看護師は本研究のメンバーでもある緩和ケア病棟の看護師2名に限定した。
倫理的配慮 研究の主旨を口頭で患者に説明し同意を得た。データ収集、分析にあたっては個人が特定できないように配慮した。
結果
1)対象患者の背景
腫瘍の原発巣は(多重がんを含む)乳腺2名、頭頚部2名、その他11名で、介入開始時のPSはPS0:5名 、PS1:5名、PS2:4名、PS3:0名、PS4:1名であった。介入時にリンパ浮腫と低アルブミン血漿による全身性の浮腫を併発していた患者は2名、リンパ浮腫のみ出現した患者は13名であった。
浮腫の主な部位は顔面・頚部6名、上肢8名、下肢15名、陰部2名で、リンパ浮腫の程度はグレード0期、3期はなく、グレード1は7名、グレード2は8名であった。介入時の皮膚の状態として正常な状態であったものが9名(60%)、乾燥しているが5名(33%)乾燥しはがれている・角質化しているは0名、リンパ漏などの問題を抱えたもの1名(7%)で、急性炎症性変化を起こしていた患者はいなかった。ただし、リンパ浮腫を伴う部位やその周辺に皮膚転移や皮膚浸潤が生じ感染・炎症などの皮膚のトラブルを抱えている患者が4名(27%)いた。使用している薬剤としてオピオイド11名、利尿剤1名、コルチコステロイド6名、抗生物質1名であった。抗生物質を使用していた1名は全身性の感染を併発していたため薬物療法が行われていた。
介入期間は平均133日(42~407日)で、終了理由は死亡10名(67%)浮腫の改善1名(7%)病状の進行4名(27%)であった。
2)CDPの実施結果
◎皮膚のケア(図1)
皮膚のケアとしては、清拭や入浴などの清潔ケア、流動パラフィン・白色ワセリン(1対1の混合軟膏)による保湿ケア、ゲンタシン軟膏・アズノール軟膏などによる皮膚創傷やリンパ漏に対する創部のケアを実施した。
死亡前3日から2ヶ月の全ての周期において全員に行われていた。変更理由では外来患者が途中で実施しなくなった、リンパ漏の消失により方法が変更となった、病状の悪化で変更となったものがそれぞれ1名いた。
図1皮膚のケア
◎簡易リンパドレナージ法(Simple Lymphatic Drainage)(図2)
SLDは、患者、家族によって行われるリンパドレナージ法である。感染・炎症や静脈血栓症などの禁忌症状のない患者で患者あるいは家族の実施できる対象者に指導し実施した。
死亡前2ヶ月の時点では6名(40%)、28日では7名(47%)の実施が確認できたが、死亡前21日には3名(20%)、14日では2名(13%)と減少し、死亡前7日になるとSLDは実施されていない。中止の理由としては死亡前2ヶ月にケアが苦痛となった、血圧が不安定になった各1名であり、他は死亡前28日から7日の周期に病状悪化により中止していた。
◎徒手リンパドレナージ法(Manual Lymphatic Drainage)(図2)
MLDは専門家によって行われるリンパドレナージ法であり、感染・炎症や静脈血栓症などの禁忌症状のない患者で、MLDによる消耗や苦痛が生じない患者を対象とし、外来患者の場合は通院時に実施し、入院患者には原則的に毎日施行した。
死亡前2ヶ月では5名(33%)、28日では7名(47%)、21日では5名(33%)、14日、7日では各3名(20%)の患者に実施されていた。死亡前28日に増加しているのは通院から入院へと移行したためである。中止理由は死亡前2ヶ月に浮腫の軽減、苦痛の緩和、ケアによる苦痛により中止を希望した患者が各1名おり、急性炎症性変化、血圧不安定、疼痛などの症状マネジメントの優先により中止した患者が各1名いた。死亡前28日から3日までの中止理由は病状の悪化によるものであり、28日には2名(13%)、21日、14日ではそれぞれ3名(20%)の中止があり、7日、3日では実施していた3名(20%)の患者すべて中止となっている。
図2SLDとMLD
◎圧迫療法(図3)
圧迫療法は多層包帯法、圧迫衣類、弾性チューブ包帯を患者の状況、病態に合わせて実施した。またこれらの方法を、たとえば下肢のリンパ浮腫の場合に下腿だけ多層包帯法を行い、大腿には弾性チューブ包帯を使用するなど、患者の状態に合わせて複合的に実施した。
多層包帯法は在宅で実施した患者もいたが、手技を覚えることが困難であり、主として入院患者に行われていた。圧迫衣類ではリンパ浮腫用の平編みの製品を使用した患者と、慢性静脈血栓症を中心に使用される丸編みの製品を代用した患者とがいた。圧迫衣類の選択の時には、平編みの製品が着脱できない、経済的に平編みの製品を購入することができない、既製品の平編み製品はサイズが合わないが予後の見通しとしてカスタムメイドを注文しても届くころには使用できなくなっている可能性があるなど、患者個々の状況を考慮して決定した。弾性チューブ包帯は多層包帯の重さが苦痛となってしまう、圧迫衣類の圧迫力が苦痛となる、麻痺や苦痛などにより着脱ができないなどの、患者の状況に合わせて選択した。
圧迫療法は死亡前2ヶ月で9名(60%)、28日では8名(53%)、21日7名(47%)、14日5名(33%)、7日5名(33%)、3日3名(20%)実施されている。変更の理由としては死亡前21日で浮腫が軽減した1名がいるが、他は病状の悪化により変更、中止していた。
図3圧迫療法
◎運動療法(図4)
運動療法には自動的に行う標準的な運動療法(自動運動)、屈伸を中心にした他動的な運動(他動運動)、生活動作の工夫の指導が含まれている。今回は自動運動、他動運動を運動療法として取り上げる。
運動療法の実施は死亡前2ヶ月で6名(40%)、28日3名(20%)、21日2名(13%)、14日2名(13%)、7日2名(13%)、3日1名(7%)に実施されている。具体的には自動運動は死亡前2ヶ月で5名(33%)、28日2名(13%)、21日から3日の期間ではいずれも1名(7%)であり、他動運動においては死亡前2ヶ月から7日まで1名(7%)に施行されているにすぎなかった。自動運動を実施していた患者も病状の進行により、標準的な方法から屈伸運動中心に変更していたが死亡前3日まで下肢のリンパ浮腫の運動を実施していた。
変更・中止の理由では病状の悪化であった。
図4運動療法
3)CDP実施に関連する要因
(1)PS(図5)
介入後の変化では、死亡前2ヶ月でのPS0~2が67%、PS3~4が27%と自分で身の回りのことができる状態であるが、28日にはPS1~2が53%、PS3~4が47%となり、21日はPS0~2が27%、PS3~4が53%と逆転し床上から離れられない患者が増加する。14日ではPS0~2が7%、PS3~4が93%、7日はPS0~2が0%、PS3~4が93%、3日にはPS3~4が100%となりほとんどの患者が床上での生活になっている。
図5PSの変化
(2)浮腫の程度
浮腫の程度は通院のために不明である患者もいるが、全経過を通してグレード0~2である。介入の結果グレード0になった2名は死亡前3日でもグレード0のまま維持されている。
(3)感染・炎症
感染・炎症では介入中にAIE併発した患者が2名おり、抗生物質が使用され改善している。その他の感染・炎症はがんの皮膚浸潤、皮膚転移の創部の炎症であり、改善にはいたらなかった。リンパ漏が生じた患者は全経過を通して2名おり、1名は改善し浮腫のグレード0を維持し感染も認められなかったが、死亡前7日に出現した患者は感染・炎症はなかったがリンパ漏の改善は認められなかった。
考察
終末期がん患者のリンパ浮腫に対する複合理学療法は患者個々に合わせて実施されているが、傾向として皮膚のケアはどのような時期であっても施行できるケアであることが明らかとなった。また患者のPS3~4が53%と過半数を超える死亡前21日になると、実施者47%と半数近く実施できていたSLDが20%にまで減少する。MLDについてもほぼ同様のことが言え死亡前28日での実施者47%が、死亡前21日では33%に減少する。このことからリンパドレナージはPSの低下と相関があると考えられる。
圧迫療法では圧迫の方法を細かく変更することにより減少は徐々に認められている。全経過を通して圧迫療法を実施していたのは、60%の患者であった。しかし、P0~2が67%を占める死亡前2ヶ月では、47%の患者に圧迫療法がされているが、PS3~4が93%となる死亡前14日には、33%に減少している。以上のことから圧迫療法もPSと相関があると考えられる。
運動療法は、PS0~2が67%を占める死亡前2ヶ月であっても実施できている患者が40%であり、終末期になると現実的に実施することは困難である。
感染・炎症は皮膚転移・浸潤に伴う患者に認められており、リンパ浮腫の合併症としては2名に確認されている。その2名については抗生物質の使用による薬剤療法により改善が図られており、介入していたことによって早期に発見、治療ができたと考える。リンパ浮腫のケアに介入して皮膚のケアを全周期にわたって行っていることによって、乾燥した皮膚やリンパ漏を併発しても感染・炎症が起こらなかったと推察できる。
浮腫の程度をグレードでみた場合、グレードの変化はほとんどないと言える。そのことからケアの介入によってグレードの悪化を予防できるといえる。介入によってグレード0になった事例では、亡くなるまで浮腫は出現しなかったが、1事例のため傾向として述べることはできない。
結論
1) 死亡前2ヶ月では、運動療法の実施が困難になる。
2) PS3~4が占める割合が過半数を占める死亡前21日には、リンパドレナージ、圧迫療法を継続していくことが困難になる。
3) 皮膚のケアは死亡直前まで実施できる。
V進行がん患者のリンパ浮腫に対するケアのガイドライン
今年度の実践の結果から、昨年作成した案の見直し、ケアの指針となるガイドラインを作成した。過去2年間の実践の結果から終末期のがん患者の場合には、複合理学療法の限界を明らかにすることが重要であるということが明らかになった。ケアと予後との関連を明確にしている点は、このガイドラインの特徴である。
1) 浮腫の分類には、簡便に浮腫の程度を判断できるリンパ浮腫の臨床的分類(International Society of Lymphology)を使用する。
2) 前述したように、終末期がん患者のケアに、徒手リンパドレナージ、圧迫療法が適応できるのは、死亡前3週間という結果がでたため、生命予後とケアの実際について見直した。
項目は、①アセスメント②マネジメントの方針③ケアの方法で構成されている。
VI今後の課題
このガイドラインは、基盤となっている臨床データが終末期がん患者の死亡前2ヶ月という期間に限定されたものであることやデータ数が少ないことに推奨の強さに課題を持っている。今後、さらに、実践しながら見直し改訂をしていく必要がある。また、昨今のリンパ浮腫への関心の高まりから考えても、研究報告の増加が期待できることより、3年以内の改訂が必要と考える。
VII成果の公表
本研究の成果は、第20回日本がん看護学会学術集会での発表を予定している。また、作成したガイドラインを小冊子にし、日本ホスピス緩和ケア協会A会員施設に配布する予定である。
共同研究者: 丸口ミサエ(国立看護大学校)
中辻香邦子、佐々木智美(国立がんセンター東病院)
鑓水理恵子(国家公務員共済組合連合会三宿病院)
VIII参考文献
Julie-Ann MacLaren (2001) Skin changes in lymphoedema: pathophysiology and management options. International Journal of Palliative Nursing. Vol7,No8:381-388
Julie-Ann MacLaren(2003) Models of lymphoedema service provision across Europe:Sharing good practice. International Journal of Palliative Nursing. Vol9,No12:538-542
Dicken S. C. Ko(1998) Effective Treatment of Lymphedema of the Extremities Archives of Surgery. Vol133:452-457
J. Sitzia (1997) Quality of Life Research Measurement of health-related quality of life of patients receiving conservative treatment for limb lymphoedema using the Nottingham Health Profile. Quality of Life Research. Vol6:373-384
Jane Board (2002) The available treatments for lymphoedema. British Journal of Nursing Vol11,No7:438-450
Elaine Penn(2002) Nurses’ education and skills in bandging the lower limb. British Journal of Nursing Vol11,No3:164-170
Susan R. Harris(2001) Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer:11.Lymphedema. Canadian Medical Association Journal;Jan23:191-197
大谷修・加藤征治・内藤滋雄編リンパ管形態・機能・発生西村書店1997
季羽倭文子監訳:リンパ浮腫、中央法規2003年
10 加藤逸夫監修:リンパ浮腫診療の実際光文社2003年
11 山田安正著現代の組織学リンパ管102~117金原出版株式会社1999
渡辺陽之介鈴木照男編人体組織学3―脈管、血液、リンパ系―リンパ管29~33朝倉書店1996





(資料1)
進行がん患者のリンパ浮腫のケアガイドライン
リンパ浮腫のアセスメント
1.浮腫の臨床的特徴による比較
臨床的特徴 リンパ浮腫 静脈性浮腫
分布 四肢の遠位部位から始まる 下肢末端(足背)から始まる
対称性 非対称 常に対称性
皮膚の硬さ 厚い/硬い 柔らかい
圧痕 早期は時々 あり
圧痛 ほとんどない なし
Stemmer sign 一般に陽性 陰性
挙上 早期では軽減する 軽減する
感染 よくみられる なし
リンパ浮腫の特徴
Stemmer signs
  リンパ浮腫 静脈性浮腫
指間の皮膚をつまめる できない つまみあげられる
圧痕 1~2分でもどる 残る
つま先、指先の形 角ばっている 丸くなっている
2.浮腫の評価
リンパ浮腫の臨床分類(International Society of Lymphology、英国リンパ浮腫学会による)
0: 潜伏期(リスクがある)
1: 軟らかく可逆性の浮腫(軽度で合併症がない)
2: 結合組織が増加し硬くなっている(中程度/強度で合併症がある)
3: 肥厚し象皮症になっている(中程度/強度で合併症がある、がんの局所再発による浮腫)
3.皮膚の状態のグレーディング
グレード 皮膚の状態
良好な保湿状態、以上のない状態
少し乾燥している
乾燥しはがれやすい
うろこ状/角質化
皮膚の問題の存在
マネジメントの方針
目標
一時的な浮腫の軽減による苦痛緩和。
浮腫のある皮膚の感染の予防。
ケア計画立案のポイント
CDPを開始するには次のような要因が整っていることが必要である。
患者の予後が少なくとも3週間以上ある。
末梢動脈不全、静脈の閉塞、静脈血栓、心不全、感染がない。
皮膚の状態がグレーディングスケール4以下である。
リンパ浮腫以外の苦痛症状の緩和ができている。
毎日リンパ浮腫のケアに協力できる人が身近にいる。
ケアの実際各期における複合理学療法の実際
1.ケアの目標
0期 リンパ浮腫の予防
Ⅰ期 浮腫の軽減
感染の予防
Ⅱ期 浮腫による苦痛の緩和
感染の予防
機能や可動性の維持
Ⅲ期 苦痛の緩和
感染の予防
機能や可動性の維持
2.皮膚のケア
<目的>
皮膚の水分を維持すること
皮膚の損傷による感染の危険性を最小限にすること
1.清潔の保持
2.損傷を避ける
3.乾燥の予防
<使用する軟膏、クリーム>
保湿流動パラフィンと白色ワセリンを1:1で混合したもの
炎症性変化が生じている時アズノール軟膏塗布
リンパ漏 アズノール軟膏か流動パラフィンと白色ワセリンを1:1で混合したものを塗布しガーゼで保護する。ガーゼを頻繁に交換する。
0期 リンパ浮腫の予防
Ⅰ期 浮腫の軽減
感染の予防
Ⅱ期 浮腫による苦痛の緩和
感染の予防
機能や可動性の維持
Ⅲ期 苦痛の緩和
感染の予防
機能や可動性の維持
3.徒手リンパドレナージ
<マッサージの基本原則>
1. 皮膚の表面だけに優しく行なう。
2. 患者は臥床した状態で行う。
3. オイルやクリームは用いない。
4. 健常部から始めて、遠位側へ進める。
5. 手掌部を用い、手首ではなく、肘と肩を使って行う。
<目的>
リンパ液の毛細リンパ管への再吸収を促進させる
表在性の毛細リンパ管への刺激によってリンパ液の流れを増加させる
間質液からのタンパク質の吸収を促進する
<禁忌>
急性炎症性変化・血栓症・上大静脈の閉塞・末梢動脈不全・心不全
  Manual Lymphatic Drainage:MLD
[マニュアルリンパドレナージ]
Symple Lymphatic Drainage:SLD
[簡易リンパドレナージ]
施行者 リンパ浮腫治療士、理学療法士、看護師 家族、患者本人でできる
適応 中程度の浮腫(Ⅱ期)(圧迫衣類を併用)
中程度から重症の浮腫(Ⅲ期)(多層圧迫包帯と併用)
終末期「の患者の浮腫(Ⅲ期)
体幹、前立腺、頚部、顔面の浮腫
特に皮膚が組織まで損傷している時
Ⅰ期の浮腫
患者が疲れるためMLDができない時
  目的 方法
0期 リンパ液の還流の刺激
リンパ液のうっ滞予防
毎日SLD
Ⅰ期 リンパ液の還流やリンパ管の収縮を促進
リンパ液の還流の促進
リンパ管の清浄化
毎日MLD
毎日SLD
Ⅱ期 間質液の移動
組織の硬化や組織化の予防
うっ滞した躯幹のリンパ液を排出
毎日MLD
毎日SLD
Ⅲ期 うっ滞した躯幹のリンパ液を排出 毎日SLD
浮腫のある四肢や躯幹に近い部分のマッサージ(皮膚転移がある時はさける)
4.圧迫療法
<目的>
圧迫衣類の、四肢に加わる圧力で、貯留した間質液を外に押し出す
<圧迫療法の方法>
・多層圧迫包帯法: リンパ浮腫用包帯(ショートストレッチ包帯)を使用し、包帯の張力による圧迫ではなく、包帯の層を重ねることで圧迫を加える。
・圧迫衣類: (スリーブ、ストッキング)
編み方に違いがある 平編み:リンパ浮腫用
丸編み:静脈疾患用
・弾性チューブ包帯: リンパ浮腫用ではないが、圧迫衣類、多層圧迫包帯法が使用できない場合使用する。
  目的 方法
0期 静脈やリンパ液の還流の促進
筋肉のサポート
圧迫衣類
弾性チューブ包帯
Ⅰ期 過剰な四肢の容積の減少
リンパ還流の促進
多層圧迫包帯を毎日巻く
圧迫衣類
弾性チューブ包帯
Ⅱ期 安楽
組織の硬化の予防
水分の貯留の予防
患者にとって現実的な方法を行う
弾性チューブ包帯
Ⅲ期 安楽
組織の硬化の悪化を遅らせる
水分の貯留の増加を防ぐ
患者にとって現実的な方法を行う
弾性チューブ包帯
多層圧迫包帯を巻くときの注意点
指または、踵はリラックスした状態であり、伸ばした状態ではいけない
手に包帯を巻いているときは、患者はそれぞれの指を広げておく
足首は90度に曲げられる
肘と膝は少しは曲げられる
手足を十分動かせ、緊張が与えられるように、患者は、肘に包帯を巻いている間は握り拳をつくり、足に包帯を巻いている間は、足首を曲げ、足の指を引き上げておく
5.運動
<目的>
圧迫療法と合わせて行い、筋肉ポンプの作用を高め、リンパ還流を促進させる。
  目的 方法
0期 リンパや静脈の還流を促進
関節の拘縮予防
規則正しい軽い運動
クッション等で四肢を挙上する
過剰すぎたり、少なすぎたりしないこと
Ⅰ期 リンパや静脈の還流を促進
関節の拘縮予防
特別な運動プログラムを立てる
四肢を挙上して休む
自分でできなければ他動運動
Ⅱ期 リンパや静脈の還流を促進
関節の拘縮予防
四肢の可動性の拡大
軽い活動や受動運動
休息時重い四肢を支持する
自分でできなければ他動運動
Ⅲ期 リンパや静脈の還流を促進
関節の拘縮予防
軽い活動や受動運動
休息時重い四肢を支持する
自分でできなければ他動運動





資料リンパ浮腫パンフレット(患者用)
リンパ浮腫
リンパ浮腫とは
からだには血液が血管を通ってからだ全体に循環していますが、それとよく似た働きを持っているのが、リンパ液とリンパ管で第2の血管とよばれています。
皮膚の下には健康なときでもタンパク質と水分からなる液体がしみ出しています。このような液体はリンパ液とよばれています。この液体が過剰に増えたりすると、よくみられる脚のむくみとなります。正常にリンパ管が働いている場合、このむくみを改善するためにリンパ管を介してリンパが回収され、むくみを解消することができます。
なぜリンパ浮腫が起こるのか?
手術や放射線療法、化学療法、外傷などによってリンパ管やリンパ節(リンパ腺ともよばれる)のはたらきが障害をうけると、むくみを解消することができなくなり、慢性的にむくみが生じることになります。
このむくみのことをリンパ浮腫とよんでいます。
リンパ浮腫は手術後すぐに現れてくる場合もありますが、治療後数ヶ月またな数年後にゆっくりと現れてくる場合があります。発症部位としては、骨盤内のリンパ節が障害されると足の付け根にあるリンパ節が障害されると足に、脇の下にあるリンパ節でリンパ液の流れが障害されると、腕にむくみが生じます。
リンパ浮腫は治る?
薬や手術などによって完治させることは困難です。しかし、次に説明する4つの方法を組み合わせて、むくみを軽減したり、悪化させないことは可能です。
リンパ浮腫の治療方法とは
リンパ浮腫の治療方法としては「複合的理学療法」とよばれるもので最も基本的なリンパ浮腫治療法です。内容は①スキンケア、②リンパ浮腫用マッサージ(徒手リンパドレナージ)、③圧迫療法(包帯法・スリーブ:リンパ浮腫専用のサポーター)、④運動療法という4つの治療を毎日続けることにより、リンパ浮腫をコントロールすることが可能です。そのために、あなた自身が基本的な知識を理解し自分自身で、できるようになることが大切です。
リンパ浮腫の症状・合併症は?
リンパ浮腫は通常無痛性のむくみとして現れますが、「突然むくんでいた」という場合には痛みを伴うこともありますが、一般には、むくみによるだるさや重さがあり、皮膚の乾燥や、進行すると硬化もみられます。
合併症として多いのは、細菌感染などが誘因となった蜂窩織炎と呼ばれる炎症で、約半数の患者が経験します。ですから患者さんが基本的な知識を身につけ、合併症を予防することでリンパ浮腫が悪化せずに、より快適な生活が維持できます。
このように、手術を受けた全員がリンパ浮腫を発症してもおかしくないわけですが、たとえ、大きなリンパ節をとったとしても、皮膚表面にある細いリンパ管が発達している場合には、それらがバイパスとして機能し、浮腫を改善してくれます。
皮膚のお手入れ(スキンケア)
リンパ浮腫によってむくんでいる皮下組織では、ただ単に水分だけでなく、タンパク質、繊維などが含まれており、バクテリアなどの老廃物も混ざっていることからむくんでいる皮膚はダメージを受けやすくなり、感染が起こしやすくなっている状態です。
ゆえに、日常生活において皮膚の清潔と保湿を維持し、感染予防に努めることが必要です。
日常生活でのスキンケアについて
手洗いの励行(指と指のあいだなど丁寧に洗う)
皮膚の保湿(水分の少ない保湿クリームなど=>ニベア流動パラフィン+ワセリンなど)
切り傷や擦り傷からの予防
水虫による皮膚の損傷、虫さされ、または炎症
外傷や感染徴候の有無(発赤、熱感、赤い筋がみられる、炎症を起こしている部分)などを確認する
基本的マッサージの手技について
むくんでいる場所に手をあてて、軽く皮膚が伸びる程度にマッサージをおこないましょう。すごくむくんでいるからといって、強くもみほぐすようなマッサージは行わないでください。
(例えば、指圧やクイックマッサージのようなやり方しない)
マッサージの方法は指示された方向に沿って(順序にそって)行っていきましょう。
注意事項
発赤、腫れ、触ると熱っぽい、痛みがある場合は、直ちにマッサージを中止してください。
自分でできるマッサージ方法
(簡易ドレナージ法)
圧迫療法(包帯法・スリーブ・弾性ストッキング)の使用にあたって
圧迫療法の効果とは?
余分に貯まったリンパ液を、包帯を巻いたり、スリーブ・弾性ストッキングを着用することで、心臓に向かってその余分なリンパ液を押し上げ、手足に下がることを防止することです。
圧迫衣類のはき方について(足の場合)
履く前に、弾性ストッキング上の部分をかかと部分まで裏返し、弾性ストッキングのかかとの向きに注意し、つま先からかかとまで履きます。
弾性ストッキングのかかと部分とかかとを正しく合わせて、足の甲の部分にたるみがないように装着する。
弾性ストッキングの上部を持ち、弾性ストッキングの形に合わせてふくらはぎ、膝、ふとももまでゆっくり引き上げます。このとき弾性ストッキングがしわになったり、ねじれたりしないように注意してください。もし弾性ストッキングがうまくつまめなかったり指の力が弱いときなどは、ゴム手袋を装着するとより簡単に引き上げることができます。
圧迫衣類の洗濯方法
中性洗剤を使用し手洗いまたは洗濯ネットを使用して洗ってください。
使用期限
半年間は使用できます。
圧迫療法(包帯法・スリーブ・弾性ストッキング)の使用にあたって
圧迫療法の効果とは?
余分に貯まったリンパ液を、包帯を巻いたり、スリーブ・弾性ストッキングを着用することで、心臓に向かってその余分なリンパ液を押し上げ、手足に下がることを防止することです。
圧迫衣類のはめ方について(手の場合)
はめる前にスリーブを半分まで裏側にする。
スリーブを手首まではめます。
何かしっかりした棒のようなものに手をつかみ残りのスリーブを腕まであげます。もしスリープがうまくつまめなかったり指の力が弱いときなどは、むくんでない手に、ゴム手袋を装着するとより簡単に引き上げることができます。
圧迫衣類の洗濯方法
中性洗剤を使用し手洗いまたは洗濯ネットを使用して洗ってください。
使用期限
半年間は使用できます。
生活指導について
長時間の立位・座位はさけましょう。
就寝時はできるだけ、むくんでいる足や手を、クッションや布団など使って、少しでも心臓より高くしておきましょう。
むくんでいる部位の皮膚を傷つけないように注意してください。
(針やお灸も行わないでください。)
急激な体重増加に注意しましょう。
(リンパ浮腫が悪化する原因になることがあります。)
精神的・肉体的ストレスがかからないようにしましょう。
むくみの部位が感染したときは、一時的に治療を中断することで、浮腫が悪化しますが、あせらず、炎症が改善してから治療は再開することができます。
温泉や水泳で炎症を起こすことがあるので、一度担当者に相談してください。