一般情報
ホスピス・緩和ケア
従事者への情報
財団紹介
財団へのアクセス
事業活動について

訪問者数 :
昨日 :
本日 :
(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2004年度調査研究報告


■緩和ケアのための標準カルテフォーマットの作成
 東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 成人看護学/ターミナルケア看護学分野
 前山 悦子


I背景・目的
近年、緩和ケアの質の標準化が重要な課題となっている。質の高い緩和ケアを提供していくために、組織運営上の工夫など、いくつかあげられるが、核となるものは、臨床支援であると考える。実践の中で緩和ケアの理念を共有しながら、どれだけスタッフの症状マネジメントに関する知識と技術を向上させるかが問われている。その具体策として、緩和ケアに関する卒前・卒後の教育プログラムは重視され実践されてきているが、現場においては、包括的なアセスメント手法を体系的に日常の業務の中にくみこむことで、その一助となるのではないかと考えた。スタッフの誰もが同じように評価できるように、常時観察すべき項目と評価方法を設定し、さらに、同定された問題に対する推奨される治療やケアの指針が付加し、適切な介入(治療・ケア)を支援する仕組である。結果として、全体のケアの質は向上し、このプロセスをシステムとして導入できれば、緩和ケアにおける知識と技術を高めるための現場のスタッフ教育としても重要な位置を占めると考える。
今回、緩和ケアを開始・実践する上で必要と考えられるもの(resources)を“緩和ケアパッケージ”として 1 つにとりまとめ、利用しやすくすることで、最善の緩和ケアの実践を、いつでも、どこでも、誰にでも共有できるようにしたいと考えた。このパッケージは、緩和ケア病棟に限らず、臨床の緩和ケア適用場面すべてで使われるものとしたい。さらに、わが国の保健医療情報の標準化の流れのなかで、電子カルテの普及は著しいことより、“緩和ケアパッケージ”は電子カルテでも運用できるような形で開発していくことがのぞましいだろう。今回の研究タイトルである、“標準カルテフォーマット”は、緩和ケアパッケージの中の一部であり、電子カルテ化を主目的とした中で核となるものである。
II方法
緩和ケアパッケージの開発期間は 3 年である。最終的には、その情報源へのアクセス、および利用をしやすくするために、インターネット上で各種resourcesを公開する予定である。
本年度は、第 1 に、「緩和ケアパッケージに組み込む内容の検討」、第 2 に、「電子カルテ化を前提にする場合おさえておくべきことについて」まとめ、次年度にむけての課題を明確化した。
第 1 については、研究者および主に緩和ケアを専門とする医師、看護師から構成される研究協力者とともに、その内容について、海外資料を参考にしながら検討をした。
第 2 については、医療情報の標準化についてのわが国の動向把握、わが国で一般的に利用されている標準マスターの情報収集、および電子化する上での問題点など、研究者が中心となり、文献、Webサイトから関連情報を収集して分析・整理した。また、実際に電子カルテを運用している緩和ケア病棟の看護師長や医師から実際の状況について情報収集した。
III結果:本年度、実施経過
1.緩和ケアパッケージに組み込む内容の検討
1)NCCN(National comprehensive cancer network [引用文献1)])の緩和ケアガイドライン[引用文献2)]
緩和ケアパッケージ開発にむけてのイメージ、具体的内容の素案作成には、NCCNガイドラインを参照した。緩和ケアの対象の定義は、「緩和ケアは死を間近にした終末期だけではなく、診断、治癒をめざす治療の時期から実施されるケアである」とする、WHOの定義 [引用文献3)]と同様であるが、NCCNガイドラインでは、特に、目的とした治療に反応しなくなった時期で緩和ケアが中心に必要とされる進行がん患者を対象にすると限定している。
この進行がん患者に対する緩和ケアガイドラインの基本構造は、緩和ケアニーズのスクリーニング(Screening for and assessing palliative care needs)、包括的なアセスメント(Palliative care assessment)として、抗腫瘍治療の適応の有無、身体、心理・社会的側面の苦痛・問題の有無、今後の生活に対する対象者の希望・期待や目標などを慎重に見極めることなどが含まれる。さらにアセスメント後に同定された各問題に対するケア(intervention)が推奨され、その後、ケアに対する評価(reassessment)を繰り返し行うというものである。
2)緩和ケアパッケージに組み込む内容
NCCNガイドラインをもとに、今回どのようなものを作りたいかについて、コアメンバーで緩和ケアパッケージの開発意義・方向性の確認、および具体的内容について検討した。
緩和ケアパッケージの基本構造は、NCCNガイドラインに準ずるが、そのすべてを網羅することは 3 年計画の中では難しいこと、および、緩和ケアはチームケアで取り組むべきものだが、まずは、看護師のケア支援を重点課題とすることについて合意がなされた。
緩和ケアパッケージ構成内容第一案は以下のように設定した。各種resourcesを、利用者がその対象にそって、組み合わせて使用していくというイメージで、この緩和ケアパッケージは、不変で固定化したものでなく、常に更新される可能性のあるものである。
次年度以降、多方面からの意見を取り入れ議論を重ねながら、内容は改定する予定である。
①包括的アセスメント(Palliative care assessment)
患者の状態を多角的に評価できるものとし、患者の紹介から死亡まで継続的にアセスメントする。他覚的・主観的評価[引用文献4)~8)]など身体症状および心理・社会的側面の各種アセスメントツールについて、その利点・欠点などが議論された。
②標準カルテフォーマットの作成
通常、看護記録には、「体温板」というようなフローチャートになっている「経過表」がある。時系列でバイタルサイン情報がグラフ化され、in―out、食事摂取状況、治療や処置内容など、看護師だけに有用な情報ではなく、医師との情報共有には欠かせないものであり、チームケアを展開する上では、「経過表」が有用なツールになっている。
電子カルテ化に対応するため、特に①であげられた項目に関する経過表を実践の中で使用しやすいように検討し、推奨できるフォーマットの型を作成することにした。終末期がん患者に共通してみられるだろう、疼痛、倦怠感、食欲不振、呼吸困難や睡眠状況、せん妄などの評価に関して、各種症状アセスメントツールを利用しながら聖隷三方原病院にて試行し、実施可能性を確認している段階である。フォーマットに盛り込まれる項目については、次年度に最終決定とした。
③同定された各問題に該当する診断と適切なinterventionの推奨
看護師の実践を支援することに重点をおき、①でアセスメントされた問題点に対してどのような看護診断が命名され、看護計画がたてられるのかについて、標準的なものを作成することした。あくまでも標準的なものとして、個別性に関しては、各自計画立案することとなる。
具体的には、NANDA看護診断[引用文献9)]を使用することにした。しかし、その診断名、診断指標において、緩和ケア領域では使用しにくい、あるいは、不足しているという意見もあり、緩和ケアに特異的な看護診断名を追加、あるいは、既存の診断を緩和ケアに適応しやすく改変することが必要という見解に達した。看護計画に関しても同様であった。
わが国の緩和ケア病棟で電子カルテを利用している施設に、使用している看護計画等に関して7施設から情報収集できた。電子カルテ内に看護記録として看護診断、看護計画を組み込んでいるが、実際には使用しきれていない現状がうかがえた。看護診断、看護計画をどのように記録し実践に活用していくかについては、さらに議論を要す課題である。
④各使用説明と用語解説書の作成:詳細を次年度以降に確定
2.電子カルテ化を前提にする場合おさえておくべきことについて
1)医療情報の標準化についてのわが国の動向
平成13年 1 月、内閣に「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が設置され、「e-Japan 重点計画」のもと[引用文献10)]、同年、厚生労働省より「保健医療分野の情報化のグランドデザイン」として、保健医療分野の情報化推進についての方向性が示された[引用文献11)]。その最終提言では、平成16年度までに全国の 2 次医療圏ごとに少なくとも 1 施設は電子カルテの普及をはかること、さらに平成18年までに400床以上の病院と診療所すべてについて、その 6 割以上に電子カルテの普及をさせることが目標とされた。これを契機に電子カルテの医療機関への導入が急速にすすんではいるが、院内システムとしての電子カルテにとどまり、病院・診療所の機能分担、機能連携が求められている中で、診療情報の共有等、地域医療の向上を目指す医療機関相互のネットワーク構築という視点からは未だ普及レベルには達していないと報告されている。施設を超えた情報交換およびEBM(evidence based medicine)推進には、医療用語の標準化とデータの互換性が基盤となるが、十分に開発・活用されている現状にはないようである[引用文献12)]。
2)看護領域に関して
長い間、誰でも利用できる公開された看護分野のマスターは全く存在しなかった。平成15年、厚生労働省、経済産業省の協力のもと、財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)により、看護実践用語標準マスター(看護行為編)がようやく作成された[引用文献13)]。今後、看護観察項目等、看護の実践を記述する用語の更なる開発が求められている。
標準用語の整備の遅れは、看護に限定された問題ではないが、電子カルテ導入を計画している病院では、各病院で独自に看護関連用語を準備しなければならず、臨床看護師のかなりの負担になっているということである。
3)緩和ケアパッケージ開発と用語の標準化の問題
標準カルテフォーマットに組み込むべき緩和ケアに特化した項目を選択し、どのようにその状態を把握するかについては主要な課題のひとつであるが、電子カルテでの運用を考慮した場合には、その用語の使い方がさらに課題としてあげられた。
通常、患者記録で用いられている用語は、病院ごと、病棟ごと、職種ごと、または同職種でも個人によって、同じ状況をとらえていても、異なる用語を用いている可能性は大きい。データの後利用(データベース化、Evidenceの生成)に関しては、互換性が取れていないというのが現状だろう。
IV今後の課題と今後の予定
1. 包括的なアセスメント、および標準カルテフォーマットに関しては、基盤となる観察項目の決定が先決だが、緩和ケアが提供される場による違いの検討なども含めて、多数の専門家の視点を通して検討していく予定である。
2. 看護診断、看護計画に関しては、看護診断など用語に精通した研究者のスーパービジョンを受けながら、機軸となる診断体系はNANDAにおきつつ、その追加・修正に関してその対応関係を意識し、緩和ケアのエキスパートの意見や既存の文献を用いながら新規作成していく予定である。
3. 最終年度の目標となるが、緩和ケアパッケージのメンテナンスに関して考えていかなければならない。
V研究の成果等公表予定
本年度は、研究途中であるため、成果発表の予定はない。





引用文献
National comprehensive cancer network:
<http://www.nccn.org/>(Last accessed January 30, 2005)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology/Guidelines for Supportive Care:
<http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/PDF/palliative.pdf>(Last accessed January 30, 2005)
World Health Organization:
National Cancer Control Programmes. Policies and managerial guidelines 2nd edition. 2002; Geneva, WHO.
Carson MG, Fitch MI, Vachon ML:
Measuring patient outcomes in palliative care: a reliability and validity study of the Support Team Assessment Schedule. Palliat Med 2000; 14: 25-36.
Miyashita M, Sasahara T, Kawa M, Shima Y:
Introduction of Japanese version STAS(Support Team Assessment Schedule)and Clinical Audit in Palliative care. Japanese Journal of Hospice and Palliative Care 2003; 13: 109-114.(in Japanese)
Akizuki N, Akechi T, Nakanishi T, et al:
Development of a brief screening interview for adjustment disorders and major depression in patients with cancer. Cancer 2003; 97: 2605-2613.
Breitbart W, Rosenfeld B, Roth A, Smith MJ, Cohen K, Passik S:
The Memorial Delirium Assessment Scale. J Pain Symptom Manage 1997; 13: 128-137.
Okuyama T, Wang XS, Akechi T, Mendoza TR, Hosaka T, Cleeland CS, Uchitomi Y:
Japanese version of the MD Anderson Symptom Inventory: a validation study. J Pain Symptom Manage 2003; 26: 1093-104.
NANDA international: NANDA Nursing Diagnoses:
Definitions and Classification 2003-2004. Philadelphia: North American Nursing Diagnosis, 2003.
10 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部:
<http://www.kantei.go.jp/jp/ singi/it2/index.html>
(アクセス日 2005.01.30)
11 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部:
保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン最終提言
<http://www.mhlw.go.jp/shingi/0112/dl/s1226-1.pdf>
(アクセス日 2005.01.30)
12 財団法人医療情報システム開発センター:標準マスター
<http://www.medis. or.jp/4_hyojyun/download/index.html>
(アクセス日 2005.01.30)
13 財団法人医療情報システム開発センター:看護用語マスター(評価版)の公表
<http://www2.medis.or.jp/zzz/index. html>
(アクセス日 2005.01.30)