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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2003年度調査研究報告


■大学医学部の緩和ケア教育カリキュラムと教科書の作成と提言
 ―大学医学部の緩和ケア教育カリキュラム試案に基づく教科書作成―
 関東自動車工業株式会社 横須賀健康管理センター診療所長
 黒子 幸一


I 緒言
大学病院の緩和ケアを考える会では第1号で全国の大学医学部における緩和ケア教育の実際をアンケート調査により明らかにし、第2号で緩和ケア教育を実施している大学のシラバスを検討し緩和ケア教育カリキュラム試案を作成した。
今回カリキュラム試案に基づき教科書作成を行ったので概要を示す。

II 目的
体系化したカリキュラムをもたずに単一科毎に緩和ケア教育が行われている各大学の現状に対しカリキュラム試案を示し、教材としてし使用し得る教科書を作成する事を目的とした。
カリキュラム試案は各大学の講義コマ数に則して選択できるように作成してあり、教科書も講義数に見合う項目を選択できる形式を目指し作成した。

III 方法
1.カリキュラム試案の行動目標の項目別に分担責任を決め内容を教育部会員を中心に担当者全員で検討した

2.作成部員(順不同)
  黒子幸一 高宮有介 白土辰子 斎藤真理 西田茂史 張修子 水町忠弘

3.カリキュラム試案
一般目標
緩和ケアの理念に基づいた医療を提供できるように、基本的な知識、態度、技術を修得する

行動目標
[1]全人的苦痛を理解し、説明できる
[2]疼痛マネジメントを含めた症状緩和について説明できる
[3]患者・家族へのインフォームド・コンセントの必要性とその方法を説明できる
[4]チーム医療のあり方とその必要性を説明できる
[5]生命倫理的問題を理解し、説明できる

[1]全人的医療を理解する
○疾病のみを診るのではなく、患者の全人格を尊重し、患者の自立と尊厳への配慮をする
○全人的とは:身体的、精神的、社会的、スピリチュアルに捉えること

[2]症状緩和
2-1疼痛マネジメント
知識 
・全人的痛みを説明できる
・痛みのアセスメントを説明できる
・WHO方式癌性疼痛治療法を説明できる
・非薬物療法を説明できる
技術
・オピオイドの投与法の選択、鎮痛補助薬の選択ができる(症例に合わせた選択ができる)
・非薬物療法の適用判断ができる
2-2その他の症状マネジメント
以下の症状や状態を理解し、緩和法を説明できる
1)呼吸器系  呼吸困難感 胸水
2)消化器系  通過障害 腸閉塞 腹水
3)腎尿路系  水腎症 排尿障害
4)中枢神経系 上下肢麻痺 運動障害
5)精神症状  抑うつ せん妄
6)その他   全身倦怠感 リンパ浮腫 高カルシウム血症 口腔内ケア

[3]インフォームド・コンセント
○インフォームド・コンセントを理解しバッドニュースの伝え方を説明できる
○患者・家族の心理的・社会的側面を理解し対応する

[4]チーム医療
○患者・家族を中心として多職種がチーム医療を行うことの重要性を理解する

[5]生命倫理的問題
○尊厳死・安楽死について理解し説明できる
○DNRについて理解し説明できる
○セデーションについて理解し説明できる

IV 教科書目次

編集にあたって

第1章 総論
STEP1
緩和ケアとは
1 緩和ケアの定義
2 緩和ケア、ホスピスケア、ターミナルケアという言葉
STEP2
1 緩和ケアの歴史
2 わが国の緩和ケアの現状
3 わが国の大学病院の現状
 1)緩和ケア教育
 2)緩和ケア病棟
 3)緩和ケアチームの現状
 4)在宅緩和ケアの現状
4 わが国における緩和ケアの今後の展望

第2章 全人的ケア
STEP1
定義を理解する
STEP2
事例を通して全人的ケアを考える
1 痛みの4つの要素
2 全人的ケアの対応
STEP3
グループディスカッション「全人的な痛み」

第3章 痛みのマネジメント
STEP1
1 がんの痛みの発生頻度と特徴
2 全人的な痛みの理解
3 痛みのアセスメントの原則
4 WHOの鎮痛薬投与の基本5原則
5 除痛ラダー
6 モルヒネは恐くない
7 モルヒネの副作用対策
STEP2
1 痛みの増強因子と緩和因子
2 アセスメントの実際
3 病態からみたがんの痛みのアセスメント
4 投与経路の選択
5 薬剤の選択
6 モルヒネの副作用対策
7 オピオイドローテーションと薬剤の選択
8 モルヒネが効きにくい痛みへの対応
STEP3
事例を通して考える
1 全人的痛みの理解
2 痛みのアセスメント
3 薬剤の選択

第4章 その他の症状マネジメント
STEP1
症状マネジメントの基本
STEP2
1 呼吸器系
2 消化器系
3 腎尿路系
4 骨転移
5 抑うつ、せん妄
6 その他の症状

第5章 インフォームド・コンセント
STEP1
インフォームド・コンセントを理解し、バッドニュースの伝え方を説明できる
1 はじめに
2 インフォームド・コンセントの現状
3 インフォームド・コンセントの理解
 1)インフォームド・コンセントとは
 2)インフォームド・コンセントの必要性 患者の側から
 3)インフォームド・コンセントの必要性 医師の側で考えなければならない事
 4)インフォームド・コンセントで医師が行わなければならない事
 5)インフォームド・コンセントの必要性 家族の側から
4 バッドニュースの伝え方
 1)癌と診断した時,患者にどう伝えるか
 2)患者に伝える時に…準備すること
 3)患者に伝える時に…内容
 4)家族が病名を伝えることに反対した時
 5)バッドニュースを伝える時の注意点
 6)バッドニュースを伝えた後で
STEP2
患者・家族の精神的・社会的側面を理解し対応する
STEP3
講義方法を示す

第6章 チーム医療
STEP1
緩和ケアチームの必要性とその構成
STEP2
緩和ケアチームを効率良く機能させるために
STEP3
チームにおける各職種の役割
1 看護師
2 薬剤師
3 リハビリテーション専門職
4 医療ソーシャルワーカー
5 管理栄養士
6 アロマセラピスト

第7章 生命倫理
STEP1
生命倫理を考える
1 DNRの定義
2 セデーションの定義
3 尊厳死
4 安楽死
STEP2
1 DNRの実際と問題点
2 セデーションの問題点
3 安楽死と尊厳死の違い

第8章 実践講義
実践講義1「自分の死、家族の死」
実践講義2「愛する人への手紙」
実践講義3「ロールプレイで行うバッドニュースの伝え方」
実践講義4「スモールグループで行うロールプレイ」

付録1 在宅の話
付録2 実際の薬剤の表(除痛ラダー、モルヒネの副作用対策、鎮痛補助薬)
付録3 フェンタニルパッチの使用法
付録4 事例を通してチームにおける各職種の役割の重要性を知る
 1)看護師
 2)訪問看護師
 3)薬剤師
 4)リハビリテーション専門職
 5)医療ソーシャルワーカー
 6)管理栄養士
 7)アロマセラピスト

 ベッドサイド・メモ
  1)患者さんとの距離
  2)偽薬(プラセボ)は使わない
  3)がんの痛みにおけるチーム医療
  4)モルヒネの誤解
  5)輸液について考える
  6)緩和ケアにおけるステロイドの適応
  7)告知という言葉について
  8)ベッドサイドで出来ること
  9)病名を伝えた後で
 10)チーム医療における医師の役割
 11)緩和ケア病棟で行っている看取り
 12)「ムンテラ」は死語にしよう!!
 13)医師として死を看取る態度


V 教科書内容
はじめに、教科書作成の趣旨と使い方に触れた。内容は基本事項をステップ1とし、さらに進んだ事項はステップ2とした。ステップ3は実践講義を主体とした。講義コマ数に即しステップ1のみの選択で全体像が捉えられるよう配慮したが、学生が利用するばかりでなく教員が教材として利用できるようステップ3に実践講義、付録としての講義方法を示した。

第1章 総論
WHOによる定義を原文で示し、その趣旨と全国ホスピス緩和ケア病棟連絡協議会が提唱するキーワードを示した。さらに緩和ケア、ホスピスケア、ターミナルケアという言葉について言及し、緩和ケアの歴史・緩和ケア病棟加算後のわが国の緩和ケアの現状を示した。わが国の大学病院の現状に関しては大学病院の緩和ケアを考える会のアンケート調査を基に、緩和ケア教育、緩和ケア病棟、緩和ケアチームの現状について言及し、今後の展望について提言した。

第2章 全人的ケアの理解
ステップ1では4つの痛み(身体的な痛み、精神的な痛み、社会的な痛み、スピリチュアルペイン)を説明し、ステップ2では事例を通して具体的に痛みの内容を提示し、全人的ケアの対応を示し事例を深めた。
ステップ3では実践講義法を示し、教員サイドで利用できるようにした。

第3章 痛みのマネジメント
ステップ1ではがん患者の痛みを軽減できるよう、がんの痛みの発生頻度と特徴、全人的な痛みの理解、痛みの評価法を示し、WHOの除痛ラダーを中心に痛みの対処法を具体的に示した。
ステップ2では痛みの増強因子と緩和因子に触れ、痛みのアセスメントでは量的なアセスメントスケールの使用法、痛みのゴール設定について述べた。除痛法については、投与経路、薬剤の選択、具体的な投与法について述べ、モルヒネの副作用対策を詳しく示した。またモルヒネの誤解についてはQ&Aの形式で示した。この他フェンタニルやオキシコドンを中心としたオピオイドローテーションについて言及した。その他鎮痛補助薬、放射線療法、神経ブロック療法を示した。
ステップ3では事例を通して痛みのアセスメントの実際を示し、具体的な除痛法を示した。

第4章 その他の症状マネジメント
ステップ1では症状マネジメントの基本をよく観察し理解する、原因の正確な診断、十分な説明、迅速な対処、予防的治療、専門家への早めの相談、繰り返し評価するの7項目を示した。
ステップ2では呼吸困難、胸水への対処法、嚥下困難、消化管閉塞、腹水への対処法、排尿障害、水腎症への対処、骨転移、抑うつ、せん妄への対処を示し、末期における輸液については別枠で示した。その他では全身倦怠感、リンパ浮腫、高カルシウム血症、口腔内症状についても触れた。

第5章 インフォームドコンセント
ステップ1では厚生省年度別人口動態社会経済面調査による病名告知率を中心にインフォームドコンセントの現状を示し、インフォームドコンセントを医師の側からのみでなく、患者や家族の側からみることで理解を深められるよう配慮した。医師が行わなければならないことを示し、病名病状を伝えるに際し準備すること、伝え方を示し、事例の中での実際を提示した。
ステップ2ではインフォームドコンセントにおける患者・家族の精神的側面を理解し対応する要点を示した。
教員が使用できる実践講義形式(ロールプレイの2形態)を付録で示した。

第6章 チーム医療
ステップ1ではチームの必要性、チームの構成メンバーを示した。
ステップ2ではチームを効率よく機能させる条件として患者中心のケア、総合的判断、個別性多様性への対応、一貫した方向性、スタッフ間の相互理解と援助、スタッフ間のコミュニケーションと連携について示した。
ステップ3ではチームにおける各職種(看護師・薬剤師・リハビリテーション専門職・医療ソーシャルワーカー・管理栄養士・アロマセラピスト)の役割を表で示した。
チームにおける各職種の役割の重要性を理解できるよう6事例を付録で示した。

第7章 生命倫理
生命倫理的問題はこれからも解決に向かって議論していかねばならない事項ばかりであるが、現時点である程度認められている部分を示した。
DNRについては定義とその必要性、実際と問題点を示し、理解を深めるため3事例を提示した。事例については解説し要点を示した。
セデーションについては現時点での解釈と問題点を示した。
尊厳死については定義とリビングウイル運動を示した。
安楽死についてはオランダの安楽死法と日本の安楽死裁判における横浜地裁の安楽死4要件を中心に問題提起的に示した。

参考文献
1)JM Hockley, R Dunlop, RJ Davies, et al: Survey of distressing symptom in dying patients and their families in hospital and the response to a syptom contorol team. BMJ 296:1715-1717,1988
2)柏木哲夫:緩和ケアマニュアル 淀川キリスト教病院ホスピス編 最新医学社 1992
3)世界保健機関編、武田文和訳:がんの痛みからの解放.WHO方式癌疼痛治療法.第2版.金原出版,1994
4)Paul S Appelbaum et al Informed consent: Legal Theory and Clinical practice Oxford University Press 1986 杉山弘行訳 文光堂 1994
5)ピーターケイ:緩和ケア百科 春秋社
  1994
6)柏木哲夫:愛する人を看取るとき
  PHP研究所 1995
7)柏木哲夫:死にゆく患者の心に聴く
  中山書店1996
8)武田文和、斎藤武監訳:緩和ケア実践マニュアル 医学書院 1996
9)清水哲郎:医療現場に臨む哲学 勁草書房 1997
10)恒藤暁:最新緩和医療学 最新医学社
  1999
11)津崎晃一訳:緩和ケアハンドブック メディカル・サイエンス・インターナショナル 1999
12)東原正明、近藤まゆみ編集:緩和ケア 医学書院 2000
13)近藤まゆみ、的場元弘編:ナースが向き合うがんの痛みと看護の悩み ミクス 2000
14)厚生科学研究班「緩和医療供給体制の拡充に関する研究」:ホスピス・緩和ケア病棟の現状と展望:17,2001
15)高宮有介:ホスピス・緩和ケア病棟における医師の教育―全国アンケート調査からー.ターミナルケア 12:183-190,2002
16)黒子幸一:大学病院の医学部・看護学部における緩和ケア教育の現状調査と提言.日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団調査・研究報告書第1号 2002
17)今中雄一:ホスピス・緩和ケアと病院機能評価、ターミナルケア13(2)、121-124、2003
18)高宮有介:大学病院におけるターミナルケア.日医雑誌129(11):1719-1722,2003
19)梅田恵:緩和ケアの質の向上を目指した実践、緩和ケアチームの面から、ターミナルケア13(2)、98-100、2003
20)黒子幸一:大学医学部の緩和ケア教育カリキュラムと教科書の作成と提言 日本ホスピス緩和ケア研究振興財団 調査・研究報告書第2号 2003