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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第5章■ 傷み以外の身体的諸症状のマネジメント

4.その他の症状
1)全身倦怠感
■診 断
 全身倦怠感とは、「身体的、精神的、認知的にエネルギーが減少したと感じる主観的な感覚」である。したがって、「だるい」と表現される全身的な脱力や衰弱感のほかに、注意力や集中力の低下、不眠あるいは傾眠、倦怠感に伴うイライラ(焦燥感)や悲しみ(悲哀感)などがみられることがある。
 終末期では、全身倦怠感が休息や睡眠によって回復しないことが特徴のひとつである。
 原因は、がんの進行に伴う悪液質をはじめ、低カリウム血症や低ナトリウム血症などの電解質異常、貧血、肝不全などの臓器不全、感染、脱水、さらに抑うつや不安など複数の因子が関連している。また、全身倦怠感はがん化学療法や放射線照射の副作用として生じることがあるが、その場合は治療終了後2週間程で回復することが多い。

 診断は全身倦怠感の有無を患者に直接聞くことから始まる。次いで倦怠感の程度、日常生活への影響、心理状態などに着目する。

■治 療
原因の治療:
 全身倦怠感は複数の因子が関連していることが多い。その因子のうちひとつだけでも取り除くことができれば、患者に利益をもたらす。

薬以外の治療法:
 身体を動かすことが、患者の日常生活における自律性を維持することにつながることがある。しかし、患者の負担になるような運動は避ける。休息と運動のバランス、活動と睡眠のリズムを把握し、患者に合わせた個別的な対応が望ましい。

薬による治療法:
 全身倦怠感に対する薬の効果には限界がある。悪液質に伴って生じる倦怠感には、コルチコステロイドの投与が有効な場合がある。デキサメタゾンあるいはベタメタゾン2~4mg/日、プレドニゾロン15~30mg/日を経口投与する。投与後、1週間経っても効果が認められなければ中止する。全身倦怠感を主症状とする抑うつの場合は、抗うつ薬を投与する。

2)高カルシウム血症による症状
■診 断
 症状は、食欲不振、全身倦怠感、口渇、便秘などにはじまり、進行するにしたがい、嘔気、嘔吐、傾眠、脱水、せん妄などが現れる。いずれも非特異的な症状であるため、高カルシウム血症の疑いを持たないと見逃す可能性がある。
 診断には、血清総カルシウム値を次の式を用いて補正し、血清補正カルシウム値を求める。

血清補正カルシウム値(mg/dl)=血清総カルシウム値(mg/dl)
+〔4-血清アルブミン値(g/dl)〕


 血清補正カルシウム値10.3mg/dl 以上を高カルシウム血症と診断する。通常、血清補正カルシウム値12.0mg/dl 以上で症状が出現する。

■治 療
 生命予後が月単位と予測される患者に高カルシウム血症が発生した場合、ビフォスフォネート製剤による治療が有効である。ビフォスフォネートが有効なときには血清カルシウム値が24~48時間後から低下し始める。

 しかし、生命予後が週単位から日単位と予測される患者では、ビフォスフォネート製剤を投与しても、患者の症状マネジメントにつながらないことがある。したがって高カルシウム血症と診断したら、治療するか否かは患者の全身状態、生命予後などを総合的に判断する必要がある。

3)脊髄圧迫による症状
■診 断
 脊髄圧迫の場合、90%以上の患者で痛みが先行する。痛みは頚部の屈曲、下肢の伸展や挙上、咳、くしゃみ、無理な運動で悪化する。痛みのある部位には棘突起部の叩打痛がしばしばみられる。痛みの発生から週単位あるいは月単位の後に脊髄横断症状(下半身の運動・知覚障害、膀胱直腸障害など)が出現する。
 脊椎単純撮影では、椎骨の破壊像、変形、虚脱を認める。MRI(核磁気診断装置)による検査は、圧迫部位の詳しい同定に有用である。

■治 療
薬による治療法:
コルチコステロイド
 デキサメタゾンあるいはベタメタゾン8~12mg/日で開始する。高用量を1週間継続し、2~3週間かけて漸減する。プレドニゾロンを用いてもよい。

薬以外の治療法:
放射線照射
 コルチコステロイド投与と同時に開始する。
減圧術
 放射線照射やコルチコステロイド投与にもかかわらず症状が進行する場合、次の条件のもとで適応となる。
  全身状態がよいこと。
  生命予後が月単位あると見込めること。
  脊椎転移が単発であること。

4)リンパ浮腫
■診 断
 リンパ浮腫は高蛋白性浮腫であり、慢性炎症や線維化を伴う。四肢のいずれかに起こるが、体幹部の浮腫を伴うこともある。原因のほとんどは、がんの再発や転移、がん治療による。とくに腋窩部や鼠径部のリンパ節への転移、骨盤内再発、あるいはリンパ節廓清によって生じる。
 症状は、腫大した部位の締めつけ感、運動制限、機能低下などで、腋窩リンパ節転移に伴うリンパ浮腫では神経障害性の痛みを伴うことがある。

■治 療
皮膚のケア:
 保湿クリーム(ワセリンなど)で乾燥を防ぎ、清潔を保つ。
マッサージ:
 リンパ液の流れを改善させるマッサージを行う。
圧 迫:
マッサージの効果を維持するために弾性包帯やサポーターを使用する。


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