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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第3章■ 病名、病状、予後の説明

I.病名を伝える

 いわゆる「がんの告知」と呼ばれてきた病名開示の是非に関する議論は、1960年代頃から長年続けられてきた。従来、がんは痛みに苦しみながら死を迎える不治の疾患と考えられ、がんであることを患者に伝えると、心に強い衝撃を与え、生きる希望を奪うとして病名を患者本人に伝えることを敬遠してきた。

 医学の進歩とともに、早期に発見して適切な治療を行えば、がんは治癒が可能な疾患となり、たとえ完治できなくても、痛みをはじめとする諸症状を緩和する医療の発達によって、辛い諸症状から解放された状態で過ごせるようになった。こうした医療の進歩とともに、患者自身による自己決定、インフォームド・コンセント、セカンド・オピニオンなどが重視され、これを尊重した医療を実践するには、がん患者自身に病気についての真実を伝えることが不可欠となった。ただし、患者が事前に「病名を知りたくない」という意向を示した場合や判断能力が十分でない場合には慎重に対処する。

II.病状と予後を伝える

 どの病期においても、がんの治療法には複数の選択肢がある。それぞれについての利点と欠点を説明し、患者が十分理解したうえで、最終的に患者自身が選択するためにも、病名だけでなく病状も正しく伝える必要がある。

 予後の期間を数字をあげて正確に予測することには限界がある。予後を伝える際には、医療従事者としての見通しを、患者が知りたいと思っている情報量を見極めながら、適切に提供するよう配慮する。不明確な期間よりも、予後が「限られている」ことを伝えることが重要であり、例えば、病状の変化を月単位、週単位といった目安で伝えるよう配慮する。

 真実を伝えられたがん患者に対しては、緩和ケアの実践が不可欠である。痛みをはじめとする身体的諸症状のマネジメントを十分に行い、精神的苦しみへの対応、社会的な問題や家族の悩みの解決も援助していく。たとえ終末期のがん患者であっても、家族や医療従事者との信頼関係を保ちながら真実のなかで過ごすことは、尊厳ある生き方を全うするうえで重要である。

III.病名、病状、予後を伝えることの利点
  • 患者自身が治療法を選択し、納得したうえで医療を受けることができる。患者の自己決定権を尊重できる。
  • 真実を知ることにより、患者と家族、患者と医療従事者との良好なコミュニケーションが築かれ、信頼関係が維持できる。
  • 真実を知ることにより、家庭内の問題を解決し、仕事や財産などの社会的問題を整理し、残された時間を有意義に過ごすことができる。
IV.病名、病状、予後を説明する際の留意点

1.病名、病状を伝える時の基本姿勢

 医師は十分な話し合いができるように時間を設定し、患者が説明の場に同席させたいと考えている人を患者に確認しておく。そのうえで患者のプライバシーが確保できる場所を使用し、患者が十分に感情を表出できるよう配慮する。

 患者本人に重要な情報を伝える際には、担当看護師の同席が大切である。看護師は立会人としての役割だけでなく、説明を受けている患者や家族の反応を観察し、医師との話し合いのあとで患者の理解度を把握し、補足説明をし、必要があれば担当医からの再説明を促す役割を果たす。

2.病状、予後をどこまで伝えるか

 まず患者が自分の病状や予後について、どの程度知っているかを把握する。患者の話を十分に傾聴することが、患者の考え方や感情を知るだけでなく、医療従事者が患者の気持ち(感情)や考え方に関心を持っていることを示すことになり、安心感を与え、信頼関係を築くことに結びつく。病状を正確に説明する必要があるが、患者の気持ちに配慮しながら、説明が一方的にならないように注意する。決して「できることはない」とか「治療法がない」などの突き放すような言い方をしてはならない。

 患者が求めている情報量に応じた説明を心がける。一度の話し合いで、すべてを説明しようとせず、専門用語を避け、分かりやすい言葉で、患者と視線を交わしながら、少しずつ説明する。事実を受け止めるためには、時間を要することを理解し、話し合いを繰り返す用意があることを伝え、質問も促す。

V.真実を伝えたあとの援助

 病名、病状を知った患者は、心に強い衝撃を受けることになる。衝撃を受けた患者に対しては、安易な励ましを避け、理解的な態度で接するよう心がける。たとえ治癒が望めないと分かっても、患者はさまざまな希望を持ち続けている。その希望を知ったうえで、希望がかなえられるよう支え続ける。どのような状況においても最善を尽くすことを伝え、とくに身体的苦しみ、精神的苦しみの緩和を保証する。

 真実を知った患者が必要とするのは、周囲の人々との良好なコミュニケーション(意思の疎通)である。孤独感や疎外感を持たなくてすむように、しっかりと言葉をかけ、できる限り患者のそばにいるよう努めたり、訪問を継続したりする。

 終末期には、さまざまな問題が生じてくる。痛みをはじめとする身体的な諸症状や日常生活の障害だけでなく、不安や孤独感、経済的な問題や家族についての悩み、さらにはスピリチュアルな痛みが起こってくる。こうした多様な問題を解決するには、医師と看護師だけではなく、薬剤師、栄養士、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、音楽療法士などが個々の患者のニ-ズに応じて参加し、チームワークの充実をはかる。


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