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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2005年度調査研究報告


■終末期がん患者の倦怠感に対するアロマテラピーを使用した足浴の有効性の検討
 独立行政法人国立病院機構山陽病院緩和ケア病棟
 宮内 貴子

  共同研究者
淀川キリスト教病院ホスピス
伊藤 友美、佐々木 輝美、田村 恵子
総合病院桜町病院聖ヨハネホスピス
近藤 百合子、久米 由里恵、山本 美和
ピースハウス病院
伊藤 真美子、瀬戸 ひとみ
山口大学医学部保健学科
山勢 博彰

I目的
がん患者の倦怠感は、進行期・終末期においては50~80%と高頻度に認められ、また患者のQOLを著しく阻害する症状であることが報告されている。現在倦怠感は複数の因子が関連した多次元的な症状であると考えられているが、終末期がん患者では原因を除去することが困難な場合も多く、倦怠感に対する治療やケアは確立されていない。
我々が実施した先行研究において、ラベンダーを使用した足浴とリフレクソロジーを併用したアロマテラピーケアにより倦怠感が有意に軽減し、その効果が持続する可能性があることを報告した。しかし我々の研究はアロマテラピーと足浴、リフレクソロジーを組み合わせたケアであったため、アロマテラピー単独の効果を直接評価していない。そこで本研究は、アロマテラピーケアとして足浴のみを実施し、終末期がん患者の倦怠感に対するアロマテラピーの有効性を再評価することを目的で、多施設共同による研究を実施した。
II方法
1.対象
2005年4月1日から11月30日の期間中、4施設の緩和ケア病棟に入院し、倦怠感を訴えたがん患者を対象とした。主治医が、アンケート調査が実施可能と判断した患者で書面によるインフォームドコンセントが得られた患者を連続的に登録した。研究期間中ステロイドの増量などの治療の変更がある場合や、事前に行うパッチテストで異常の認められた患者は除外した。
2.研究デザイン
クロスオーバーデザインによる介入研究で、対象を1日目に足浴(コントロール群)、3日目にスィートオレンジを加えた足浴(アロマテラピー群)を行なうグループと、1日目にスィートオレンジを加えた足浴、3日目に足浴を行なうグループに登録順に交互に振り分けた。
3.看護介入の手順
コントロール群は、午前10時から11時の間に40から42度の湯を使用し10分間足浴を行った。アロマテラピー群は、コントロール群と同じ条件で、スィートオレンジエッセンシャルオイル3滴を実施直前に加えて足浴を行った。スィートオレンジエッセンシャルオイルはハーバルライフ(学名:Citrus Sinensis、産地:アメリカ)を使用した。
4.効果判定項目
両群とも足浴前と、足浴4時間後に奥山らが開発したCancer Fatigue Scale(CFS)測定して評価した。また研究3日目に、足浴の快適性についてのアンケートを実施した。以後希望に応じて足浴を実施し、その実施回数を記録した。
5.統計解析
CFSは総合的倦怠感と下位尺度毎に、「介入方法」と「介入前後」の2要因による対応のある二元配置分散分析で検定評価した。
III結果
1.登録患者の背景
本研究には38例が登録されたが、病状の悪化などにより7名が脱落し、研究を完遂して評価が可能であったのは31例であった。患者の背景は、男性が14名、女性が17名で平均年齢(最小~最大)は65歳(44~89)であった。がんの原発部位は胃6名、肺5名、腎、膵、大腸各々3名、肝、頭頸部、血液癌各々2名、食道、縦隔腫瘍、十二指腸、子宮、卵巣が各々1名であった。ECOGのPerfomance statusの平均値は3であった。コルチコステロイドは21名(68%)が使用しており、1日の平均使用量はベタメタゾン換算で1.97mgであった。
2.倦怠感に対する効果(図1~4)
CFSの総合的倦怠感の足浴前後の得点の平均および標準偏差は、コントロール群26.94±10.76、25.26±10.78で、アロマテラピー群26.13±9.28、22.77±8.74であった。両群とも実施前後でCFSが低下しており、前後で主効果があった(F=11.03、p<0.01)。介入別では、両群に有意差は無く(F=0.98、p=0.34)、交互作用が認められなかった(F=0.98、p=0.33)。
身体的倦怠感では、コントロール群10.87±6.75、10.23±6.65で、アロマテラピー群10.94±6.98、8.71±6.29であった。両群とも実施前後でCFSが低下しており、前後で主効果があった(F=8.54、p<0.01)。介入別では、両群に有意差は無く(F=0.59、P=0.45)、交互作用が認められなかった(F=2.11、p=0.16)。
認知的倦怠感では、コントロール群4.74±4.08、4.39±3.89で、アロマテラピー群4.29±3.58、3.35±3.13であった。両群とも実施前後でCFSが低下していたが、有意差は認められなかった(F=3.41、p=0.08)。介入別では、両群に有意差は無く(F=2.14、p=0.15)、交互作用が認められなかった(F=0.65、p=0.43)。
精神的倦怠感では、コントロール群11.32±2.74、10.65±3.11で、アロマテラピー群10.90±3.11、10.71±2.62であった。両群とも実施前後でCFSが低下していたが、有意差は認められなかった(F=1.58、p=0.22)。介入別では、両群に有意差は無く(F=0.14、p=0.71)、交互作用が認められなかった(F=0.72、p=0.40)。
図1総合的倦怠感 図2身体的倦怠感
図3認知的倦怠感
図4精神的倦怠感
3.足浴の快適性について
香りについては29名中19名(66%)がよい、6名(21%)がまあまあと答えていた。よくないと答えた1名(3%)は、その理由として鼻閉があることを挙げていた。湯の温度については、31名中24名(77%)がよい、7名(23%)がまあまあと答えていた。時間については31名中17名(56%)がよい、11名(35%)がまあまあと答えていた。
足浴継続の希望は、アロマテラピー希望が30名中25名(84%)、足浴のみが1名(3%)、希望なしが4名(13.3%)であった。希望しない理由は、「もう少し元気だったら希望する」「マッサージを希望」が各々1名であった。研究終了後の継続実施回数の平均は1.87回(0~13)であった。
IV考察
今回の結果では、CFSの認知的倦怠感と精神的倦怠感については、コントロール群とアロマテラピー群で足浴前に比べ足浴後にCFS得点の低下は見られたが、有意差は認められなかった。CFSの総合的倦怠感と身体的倦怠感では、コントロール群とアロマテラピー群のどちらにおいても有意な改善が見られた。この結果は足浴が主に倦怠感を軽減する効果を示していたことを意味し、アロマテラピーを併用したことの上乗せ効果は確認できなかった。身体的倦怠感は、「疲れやすい」「体がだるい」などの倦怠感の身体的知覚を評価すると考えられており、足浴における温熱刺激、循環刺激による身体への直接的な効果が、倦怠感全体の改善に特に影響を与えていると考える。今回は対象が31例と少数であり、終末期がん患者の倦怠感に対するアロマテラピーの有効性を評価するためには、症例数を増やす必要があると考える。
アロマテラピーを使用した足浴の快適性については8割以上の患者が好意的に評価しており、また足浴継続の希望でも8割以上の患者がアロマテラピーを使用した足浴を希望していたことから、スィートオレンジエッセンシャルオイルを使用した足浴は満足度の高いケアであると言える。アロマテラピーの継続を希望しなかった5名については、我々の施設ではアロマテラピーマッサージを実施しており、足浴のみではなくマッサージを希望する患者が多いことなどが原因として考えられる。
V結論
足浴もアロマテラピーを使用した足浴もCFSの総合的倦怠感と身体的倦怠感を改善したことから、終末期がん患者の倦怠感に有効な看護援助である可能性が示唆された。今回の結果から、足浴に比べアロマテラピーを使用した足浴が有効であるとはいえなかったが、快適性のアンケートではスィートオレンジエッセンシャルオイルを使用した足浴は満足度の高いケアであることが示唆されており、今後研究を継続し症例数を増やし再度検討することが必要であると考える。
VI研究の成果公表予定
継続研究にて症例集積を行ない、その結果について日本緩和医療学会総会で発表を予定している。
参考文献
1) Kutner JS, Kassner CT, Nowels DE: Symptom burden at the end of life: hospice providers' perceptions. J Pain Symptom Manage 21: 473-480,2001
2) Passik SD, et al: Patients-related barriers to fatigue communication; initial validation of the fatigue management barriers questionnaire. J Pain Symptom Manage 24: 481-493, 2002
3) Mock V: Fatigue Management: evidence and guidelines for practice. Cancer 92: 1699-1707, 2001
4) 宮内貴子,小原弘之,末広洋子:終末期がん患者の倦怠感に対するアロマテラピーの有効性の検討?ラベンダーを使用した足浴とリフレクソロジーを実施して?.がん看護9:356-360, 2004
5) Okuyama T, Akechi T, Kugaya A, et al: Development and validation of the cancer fatigue scale: a brief, three-dimensional, self-rating scale for assessment of fatigue in cancer patients. J Pain Symptom Manage 19: 5-14, 2000