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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2002年度調査研究報告


■ホスピス及び緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの業務実態とガイドライン作成についての研究 <2P>

3. 研究の内容、実施経過

1. 「Hospice: A New Horizon for Social Work」Nina Millett[参照3]の要旨
  (ソーシャルワーカーの業務範囲を中心に)

 1980年はアメリカの医療機関におけるソーシャルワークの75周年記念にあたり、1905年にボストン・マサチューセッツのジェネラルホスピタルで開始して以来の基本的な目的は変わらないが、ソーシャルワークスキルは、より高度に洗練され、科学的になって発展している。また、ヘルスケアチームの中でも、不可欠な要素となっている。Nina Milleltは、このようなソーシャルワークの発展の要因として、次のような社会的問題の発生をあげている。

[1] 上質なヘルスケアは、身体的なニーズに加えて、社会や環境の要素が含まれなければならないことが、徐々に認知されるようになっている。
[2] アメリカにおけるヘルスケアに関する財源上でメディケアやメディケイドを経て、急性期のケアにおいて、制限が加えられるようになっている。
[3] 高齢者の増加に伴い、慢性的で長期的な病気により苦痛を齎されている多くの人々が、継続的なケアを求めている。
[4] 進行性で生活を脅かす病気により、家族機能を崩壊させることになっている。

 また、ソーシャルワーカーは、人を全体的に捉えること、そして個別的な身体的、社会的、精神的そして霊的なニーズには、それぞれ相互的な関係があるという事実に関心を持っていることを基盤として、患者や家族に起こる問題を解決するために、様々なスキルを活用することができるとしている。
(1)業務の範囲
(直接的援助)
 末期患者とその家族は、現実と予期されるもの両方から、ほとんどの人が喪失体験とともにいつも急襲体験を伴っている。理学療法士Purtilo(1976)が議題にしている喪失についての3つの主要な範囲-プライバシー・ボディイメージ・関係性―については、ソーシャルワークの視点に容易に適応できるとし、この主要な範囲において、患者が病気の進行のあいだ経験する「小さな死」を認識する必要があることを示唆している。究極の喪失としての「死」に対して、患者が直面する「生活の喪失」は「小さな死」としての体験なのである。論文で提供されている事例は省略するが、圧倒的で、破壊的で、頻繁に起こりうるこれらの生活上の喪失体験に対して、チームメンバーによる介入や支援による建設的な援助が必要としている。
 また、Ronald Koenig(1968)によって実施された末期がん患者に対する社会的サービスニーズについての調査・研究報告が紹介されている。この報告では700例以上の問題について報告されているというが、病気の進行に伴う病気の症状の問題、経済的な問題、不安や心配に関係したもの(たとえば、痛みの不安、意欲喪失、身体の限界、身体の外観やボディイメージの変化、苦痛な検査を体験するかもしれないことへの不安など)があったという。またKoenigによって、社会的な問題を含んで、その他の問題点が確認されたことが述べられている。それは、配偶者や他の家族のコミュニケーションの変化やケアの要求の増加、性的関係、家族間の絆が保てないためにおきる無価値の感情のようなものなどである。
 ソーシャルワーカーは、ホスピスチームの一員としては、患者や家族援助の中で、病気の症状を悪化させる要因となる社会的・心理的な問題への援助を請け合い、患者や家族に対してはこれらの問題を解決することができる援助者として提供される。これら直接的な援助においては、以下に述べる援助方法の適切な活用に精通していることであると述べている。
 また、家族や家族力動についての知識や理解はもちろんであるが、傾聴は不可欠であるとも述べている。

(危機介入)
 家族が、すでに潜在する問題により相当な緊張のもとにある場合、そのうえに、やがては死に至るであろう長期の病気によるストレスの追加は、耐えられないほどの負担が増し、家族は危機に陥ることを指摘している。危機介入についてJeannette Oppenheimer(1967)の提案を紹介している。[1]患者や家族がその問題に十分気付かれるように援助する[2]全体の状況を評価する[3]患者や家族が現存している資源を動員することや問題解決のために、より効果的な対処メカニズムについて新しく開発することを援助する。
 また、在宅ケアにおける危機介入の事例を紹介しているが、ソーシャルワーカーが家族間の調整や家族力動への介入を行うとともに、関連する要因から起こる患者の痛みや諸症状の増加に対して、他のチームメンバーによって援助が継続されており、チームワークと協働は、不可欠であったとされている。また、ソーシャルワーカーは患者との死別後、家族に潜在していた問題の解決に対しても、家族からの要求があれば、継続して援助が可能であることも示唆している。

(短期間のケースワーク)
 時間と労力は、ターミナル期にある人々とその家族に関わる時に重要な要素であるとし、短期間のケースワークモデルは、ホスピス家族に関わるために、また特有の問題に関して解決することを援助するために、容易に適応できるものであるとしている。患者と家族のコミュニケーションに関する問題が患者の孤立や心配を生じさせ、そのために身体的症状が悪化している例を挙げ、数回の面接において家族がコミュニケーションの重要性について理解したことにより問題が改善されたとして、短期間のケースワークの有効性について言及している。

(患者擁護)
 患者擁護は当然として、具体的なニーズへの供給を援助することも伝統的なソーシャルワークであり、ホスピスケアにおいても存在する。社会資源についての認識とそれらの適切な利用法に関する知識は、両方ともホスピスケアにおけるソーシャルワークに不可欠である。これらは特に在宅環境において、行政に働きかけることを通じて供給や設備に関して質的ケアを保証するために必要な患者擁護であるとしている。

(長期間の治療)
 数ヶ月、ホスピスプログラムを利用している患者と家族で、もし個別に必要であれば、カウンセリングや治療の期間で長いかかわりの機会を提供しているとし、また、全てのホスピスプログラムで共通である死別のプログラムは、家族への追加の関わり合いとしての機会を提供しているとある。悲しみの体験による死別の援助をするボランティアを養成もしたが、ソーシャルワーカー自らも関わりのあった家族で、悲嘆の解決のために追加の援助を求めている人たちのために、このカウンセリングと治療のプロセスを通じて援助していることを述べている。
 悲嘆の援助の事例を挙げ、患者と家族のソーシャルワークニードは、具体的な社会的ニーズの供給が主ではあるが、その他支援のための援助やカウンセリングをも必要とするであろうと述べている。
 以下は、業務の方法について論じている。

(協働と協議)
 患者と家族の援助のためのホスピスチームの協働と協議は、彼らの全ての状況に影響し、ソーシャルワーカーは、社会的、経済的、情緒的な要因についての説明と評価により、援助を担っているとしている。理想的には、ソーシャルワーカーはホスピスチームの成熟したメンバーとして患者や家族に、定例で直接的な援助を提供することであるが、実際には、個別的なプログラムにおいて、組織構成や財政的限界によりソーシャルワークの活用において制限があるかもしれないとして、その場合こそ協働と協議が情報を保証する場として機能することに言及している。

(方針と計画)
 伝統的な医療モデル-調査・診断・治療-は末期患者やその家族のようなグループに対してはいつも有効ではなく、ソーシャルワークの展望は、この医療モデルを拡大することにあるとしている。またソーシャルワーカーは、医療方針やプログラム開発において、自らのコミュニティ全体の知識やその長所や短所、資源や(欠陥)、文化的構成等についての知識を生かして考えることができるとしている。そして広範囲でバランスのとれたプログラムのある組織のために、多様な訓練を受けた専門職が必要であると強調している。

(教育)
 教育は自分だけでなく、他人をも巻き込んで継続しているプロセスであるとして、ソーシャルワーカーが自らの領域での新しい展開や知識に遅れないようにする責任を負っていることと、その他の領域をも理解することの重要性も指摘している。また、教育は患者や家族の特別な状況から生じる感情や心配について、より理解を増すためのソーシャルネットワークの活用など、患者や家族を巻き込むことも含んでいるという。また、地域教育活動に参加し、地域において死や臨死についての問題に敏感であるよう啓発することにも責任があるとも述べている。また、ホスピスプログラムが、学生にソーシャルワークの専門職としての心構えをさせる貴重な実践経験を与えることができるとしている。

(調査)
 ホスピスケアに関連する調査は、死や臨死の領域における調査や生活の質、患者と家族のニーズ調査、痛みや症状コントロールなど多様な観点から必要としているが、ソーシャルワーカーは、評価と消費者満足を得るプログラムなどの領域を調査するために重要な役割があるとしている。

(立法)
 現在の大部分の法律が、急性の治療効果のあるケアやリハビリテーションに関連するものであり、これらのカテゴリーは末期患者には適応されにくい。現在の法律と給付金の要求が、患者と家族が末期症状に対応できるように効果的に変化する必要があるとして、地方、州、国家レベルでのホスピス概念についての法律家教育の必要性を述べ、それは、ソーシャルワークとして適切な役目でもあるとしている。

Nina Millettは、ホスピスの4つの主要な特徴として[1]チームワーク[2]役割の不明瞭[3]絶え間ないストレス下での仕事 [4]不確実への忍耐力を挙げ、全ての説明を行っている。
 また、当時のアメリカにおいては、ホスピスケアは発展途上であり、医師の理解不足や財源的な問題として、民間の寄付や譲渡に依存している状況を挙げている。また、全てのプログラムに適応できる標準的モデルを開発することも課題としている。これらの問題を困難性としてまとめている。


2.「全国ホスピス・緩和ケア関連施設ソーシャルワーカー懇談会」実施概要
(1)実施目的
2001年に連絡協議会A会員施設(承認施設)のソーシャルワーカーを対象に、アンケートによる業務実態調査を行った際に、自由記載欄で業務上の様々な思いや立場上の問題等が確認されたため、業務実態について認識を深める事と、ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカー業務のガイドライン作成の可能性を探ることを目的とした。

(2)実施内容
連絡協議会A会員施設及びB会員施設169施設のソーシャルワーカー宛に案内状を発送した。2002年11月30日に山口会場で、2002年12月7日に東京会場にて開催した。共同研究者(田村里子氏、磯崎千枝子氏、尾方仁氏、福地智巴氏、橘直子氏、松山奏氏)が分担で話題提供を行い、参加者の業務上の問題や実態について意見交換を行った。

(3)結果
山口会場13名、東京会場21名の計34名の参加者であった。参加者の特徴として、緩和ケアへのかかわり経験が浅い人や緩和ケア病棟を近く立ち上げる施設のソーシャルワーカーで、役割や業務についての情報収集を目的とした人が多い傾向であったが、経験年数の長いソーシャルワーカーは、緩和ケアにおけるソーシャルワーカー業務のガイドラインや診療報酬上の位置付けを意識した参加であった。 また、参加者は各々の施設においては、ソーシャルワーカーとして一定の認知はされているものの、ホスピス・緩和ケアに関する情報量の少なさや他病棟や他科との兼務によるディレンマなどが挙げられた。以下に意見を項目ごとにまとめたものを示す。

(業務に関して)
入院相談・電話相談
苦情相談
差額ベッドなど経済的な問題相談
緩和ケア病棟入院前の心理的対応を含めての転院・退院援助
単身者の小遣い管理など含めた日常的援助
ボランティアコーディネーターも含めたボランティアへのかかわり
他科や介護支援専門員、事務職との兼務におけるディレンマ
病院経営と患者意思とのディレンマ(病床管理に関して)
業務の範囲についてのディレンマ(標準業務を超えたかかわりについて)
高齢者や精神障害合併症患者、臨死におけるケアについての不安
(その他)
継続的研修の必要性
緩和ケアにおけるソーシャルワーカーのネットワークについて
保健・医療機関におけるソーシャルワーカーの資格化について


 なお、継続研修やネットワークについて、連絡協議会の年次大会などで機会を設けてほしい等の要望が参加者の大多数から提案された。


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