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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2001年度調査研究報告


■アンケートによる緩和ケア病棟承認施設におけるソーシャルワーカーの実態調査 <4P>

7) 緩和ケア病棟責任者によるMSW業務への認識について
 冒頭の回収結果でも示したように、今回はMSW未配置の施設に対して病棟責任者を調査対象としたが、結果はMSWとの重複回答施設もあり、MSW業務との関係についてのみ結果報告を行う。

 回答のあった緩和ケア病棟責任者の役職は、PCU医長他12種類であった。職種は、医師10人(50.0%)看護婦10人(50.0%)であった。MSWに代わるケアを担当する部署は、いずれも緩和ケア婦長が半数を占めた。図8-1~図8-2はMSWの業務内容について、MSWと重複回答のあった施設とそれ以外の施設の対比を行う。また、図9-1~図9-2は悲嘆のケアについて、MSWと重複回答のあった施設とそれ以外の施設の対比を行う。

 MSWの不在理由については、MSWとの重複回答のあった施設以外の施設10施設のうちで回答のあった7施設では「人件費などの病院の方針」と答えた施設が6施設で「その他」が1施設であった。
 また、自由回答には、MSWの専門性や資格について明確にしなければ、配置は進まないのではないかという意見があった。また、MSWを病院として配置しても、臨時職員という不安定な勤務形態のため、期待にこたえられるMSWが育たないという意見もあった。

図8-1 MSW回答施設群
図8-2 MSW回答なし施設群
図9-1 悲嘆の援助(MSW回答施設群)
図9-2 悲嘆の援助(MSW回答なし施設群)

6. 考察

1) MSWの専門職としての基盤について
 MSWの活動は、従来から有資格者の現場であるといわれていた医療領域において、患者を生活者として捉え、社会福祉の価値観をもって患者や家族の援助及び支援活動を行ってきた先人たちにより、資格をもたないために、自らの倫理と努力によってのみ支えられてきた歴史を持っている。今回の調査では、緩和ケアという医療領域の一部ではあるが、大学やその他の教育施設で社会福祉学という学問的基盤を持ち、社会福祉士や精神保健福祉士、介護支援専門員などの専門職としての資格をもって活動しているMSWが増えていることが明らかになった。ただ、経験年数から言えば10年未満のMSWが69.8%であった。この背景には緩和ケアの歴史が浅く、特にホスピスや緩和ケア病棟の設立が1999年以降に集中していることから採用年数の関係であると思われる。またMSWの社会的認知度から見れば、医療機関においては介護保険制度施行に伴う介護支援専門員の資格取得との関係で役割認知が進んだことも否めない事実である。

 日本の病院全体のMSW絶対数が少ないことはよく知られていることであり、緩和ケア病棟を有する施設においても回答者53施設の内2人以下の施設が67.9%であったことを見れば例外ではない。しかし今回の調査で特徴的であったのは、MSWが緩和ケア病棟に専任として位置付けられている施設では、必ずしも病院全体のMSW数が多い状況ではなかったことである。このことは、これらの施設では、施設管理者が緩和ケア病棟においては特にMSWの配置の必要性を理解していることがうかがえる。

2) 緩和ケアにおけるMSWの業務と役割について
 MSWは、患者の入院前から、言い換えれば患者が他の病院に入院中であったり、医療機関の選択に迷って在宅で悶々としている時期から、相談援助を始めている。また、家族が患者とのかかわりに悩んだり、療養の場の選択にあたって、現在の主治医への遠慮があって苦悩したりしている問題を抱えて、密かに相談室を訪問する。

 今回の調査では、入院前のかかわりに重要な相談窓口としての位置付けは、回答者の64.2%であり、その役割認識が高いことがわかる。相談内容については、入院相談や情報提供、経済的なことに加えて、家族や仕事の問題、自己決定への迷いや不安、セカンドオピニオンに関することなども多いことがわかった。MSWが医療機関において、治療的な立場でなく第3者的存在であることから受けられる相談内容とも言える。また、早い時期から患者の全体像を把握し、MSWの視点を療養上に反映できるための機会でもある患者の初診同伴や入退棟判定へのかかわりは、施設によって、ばらつきがあった。特に初診同伴は、所属が兼務のMSWの場合、他業務との関係で困難性があることが理解できる。しかし、緩和ケア病棟設置基準にも盛り込まれている入退棟判定委員については、回答者の62.3%がメンバーとなっており、緩和ケアが患者を全体的に捉える視点の反映であると思われる。

 次に入院中の業務として、カンファレンス参加状況は69.8%で、チームとしてのケアが進んでいると思うが、参加形態は週1回の開催が多いものの、施設によって内容に違いが見られ、施設のカンファレンスの捉え方が反映されているものと考える。MSWに限って言えば、所属が準専任や兼務の場合、MSWは参加意欲をもっていても、他の突発的な援助業務との関係で時間的な制約を受ける状況があるようである。カンファレンスへの参加形態が確立していれば、医師による患者・家族への病状説明への同伴は、必ずしも必要がないとも考えられる。回答結果にあるように要請があるときに同伴することで十分であるとも言える。

 具体的なMSW業務に関していえば、医療費や、生活困難などの経済的な問題への援助および患者・家族の在宅療養ニーズへの援助は、当然の業務であるが、単身者の日常的なニーズへの援助、仕事や社会的役割に伴う自己実現ニーズへの支援や援助、家族間の葛藤や確執に対しての調整援助、生活圏域外での療養の場の選択ニーズへの援助などは、対人援助技術を修得し、多様な社会資源の情報と活用方法を得ているMSWの主要な業務ともいえるであろう。特に単身者の援助は、家族的なかかわりや日常の生活を大切にする緩和ケアの場では、他のスタッフから、最も期待される業務であることが推察される。また、スタッフのケアに対する不安や不満等の調整援助は、第3者の立場であるMSWだからこそできる業務であろう。患者の権利が主張される時代になってきたが、インフォームドコンセントや患者主体を柱にしている緩和ケアにおいても、患者・家族と直接的な医療スタッフとはケアする側とケアされる側の関係を乗り越える現状にはない。故に、チームとしての関わりが必要なのである。

 在宅緩和ケアについては、24時間体制での訪問体制や、緊急時の訪問や入院受け入れなど量的、質的両面での体制の確立が求められている。ようやく診療と看護の体制充実を図るところから、緒に就いたばかりである。MSWの家庭訪問は、調査では、73.6%ができていないという現状であり、施設内での在宅緩和ケアの実施状況と併せて、MSWが院内での業務で精一杯の状況であることがうかがわれた。

 次に死別後の援助のうち、悲嘆のケアに関しては、必要と感じているが、現実には時間的制約があり、援助を困難にしていることが推察される。悲嘆のケアは、MSWだけでなく心理職や宗教家など、他のスタッフに期待されるところも多いが、遺族の悲嘆は、心理的精神的な面だけでなく、患者が若年層や熟年層であった場合には、残された家族の経済的な面で生活の再設計に障害となるケースも多く、経済的自立のための援助が期待される。

 また、家族が患者とともに生きてきた生活の歴史がある家庭を訪問して、その生活体験や療養体験に耳を傾けることは、悲嘆から立ち直る重要な契機となることが多い。MSWはこれらのことを認識しているにも拘らず、現状の体制では、業務上の制約があることを今後の課題としているようである。またMSW独自の業務として、単身者の引き取りや埋葬に関わる問題に対しての調整援助や献体等、患者の死後の意思に伴う調整援助は、他のスタッフから期待されていることであり、社会資源の活用という専門性の発揮できる内容でもあると考える。

7. まとめ

 今回、紙面の制約の関係上、全ての調査項目の結果についての分析結果が報告できないが、MSWが医療機関において絶対数が少ない中で、準専任や兼任という厳しい勤務環境のもとで、緩和ケアの取り組みの重要性を認識した業務を行っている実態をうかがうことができた。このことは、緩和ケアの理念が、MSWが拠りどころとする社会福祉の倫理と価値観の実践化と一致するからであると考える。アンケート最後の自由記載の項目には、多くのMSWからご意見をいただいた。あるMSWは、実名入りで別紙A4一枚に緩和ケアとMSWの役割についてのご意見を寄せてくださった。

 緩和ケア病棟へのMSW専任化の是非については、まだ議論の分かれるところもあるようであるが、緩和ケア病棟設置基準へMSW配置の項目を入れることについては、期待を寄せる声が多かった。今回の調査結果から、緩和ケアにおけるMSWの役割を確立する上で当面必要であると考えたことが、つぎの2つの課題である。
  1. 緩和ケアにおけるMSWの知識や技術の向上のための研修体制の確立
  2. 緩和ケアに関わるMSWの全国組織の創設
 最後に、今回ご多忙の中を短い調査期間にも拘らず、アンケートにご協力いただいたMSWおよび緩和ケア病棟責任者に感謝の意を表する。また、今回の調査研究の趣旨に賛同され、共同研究者としてご協力いただいた8名のMSWおよび所属施設に深謝する。
 

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