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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第4章■ 痛みのマネジメント

(鎮痛薬については、2013年9月時点での情報を一部追加記入しています)

VI.痛みの診断(アセスメント)

 効果的な痛みのマネジメントの前提は、次の手順による痛みの診断である。
  • 患者の痛みの訴えを信じ、軽視ないし過小評価しない。
  • 鎮痛薬を用いて痛みを和らげながら痛みの診断を進める。
  • 痛みの経過を聞き、次の点から痛みの強さを軽度、中程度、高度に分けてとらえる。
     痛みによる行動制限や不眠の程度
     過去に体験した痛みとの対比
     投与中の鎮痛薬の効果
  • 侵害受容性の痛みか、神経障害性の痛みか、両者が混在した痛みか、持続性の痛みか、間欠的な痛みか、関連痛か、などを把握する。
  • 患者の心理状態を把握する。
  • 診察を丁寧に行う(必要となる補助検査法は少ない)。
    痛みの部位の局所所見、関連領域の神経学的所見、全身状態など  
  • 特定の治療を必要とする緊急事態(例えば、イレウス、病的骨折)には別途対応する。

VII.鎮痛薬の役割と使用法の基本原則

 適切な鎮痛薬を適切な量と適切な投与間隔で用いると、がん患者の痛みの大多数は消失し、痛みのない状態を維持することができる。

1.持続性の痛みに対する鎮痛薬使用にあたり守るべき5つの基本原則
  1. 経口投与とする。
     可能な限り経口投与を維持する。経口投与は、必要とするものを生体内に取り入れる自然の経路の活用であり、もっとも簡便な投与法で他人の手を借りずに患者自身で実施でき、患者の自律性を助ける。経皮、坐剤、注射などの投与経路は経口投与が不適切な場合に用いる。
  2. 痛みの強さに相応した鎮痛効力の薬を選ぶ。
     鎮痛薬を効力の順に示すWHO三段階除痛ラダー(図4-1)に従うが、いつも第1段階から始めるのではなく、痛みの強さに応じた鎮痛薬(段階)を選択する。例えば、痛みが非常に強いときには、最初から第3段階の鎮痛薬(モルヒネやオキシコドン)を選択する。
     ある段階の鎮痛薬による効果が、増量しても不十分なときには、必ず1~2段階上の薬に切り替えないと解決には至らない。鎮痛補助薬の併用は必要に応じて考慮する。
  3. 除痛に必要な個別的な量を患者ごとに求める。
     患者ごとの投与量の検討は、どの患者にとっても安全な少量から開始し、鎮痛効果と副作用を観察しながら増減調整し、次回投与時刻まで痛みが消失する量を求める。この量には個人差が大きく、しばしば教科書的な標準投与量よりも多い量となる。
  4. 時刻を決めて規則正しく投与する。
     頓用方式や食事時間に関連した服用を基本方針とせず、必ず一定時間ごとの「定時投与」とする。薬が効果を現すまでの時間や体内半減期は個々の鎮痛薬ごとに異なるため、痛みの消失の維持にあたっては、服用した薬の効果が切れて痛みが再発するレベルの血中濃度以下とならないよう、次回分の投与を痛みの再発前に行う必要があり、定時投与は、これを行うためにもっとも効果的な方法である。

    臨時追加量(rescue dose):
     次回投与時刻前の痛みの再発、体動時痛、突出痛(breakthrough pain)があった場合には、速放製剤1回量の50~100%量の範囲の量(痛みの性状や持続時間に応じて決める)を臨時に投与し、鎮痛効果を得る。なお、次回定時投与は休まず、予定時刻に予定量を投与する。この臨時追加量を rescue dose と呼び、その回数に応じて定時投与分を増量調整し、rescue dose の回数減をはかる。
  5. そのうえで、細かい点にも留意する。
    ・鎮痛薬の副作用の予防策を併用する。
    ・患者の心理状態に配慮する。
    ・適応があるときには鎮痛補助薬を併用する。
VIII.鎮痛薬の使用法の実際

1.鎮痛薬の選択基準(図4-1、表4-1)
  • 痛みが軽度なら非オピオイド鎮痛薬を選択する。
  • 非オピオイド鎮痛薬を増量しても鎮痛効果不十分なとき、あるいは非オピオイド鎮痛薬では不十分と予測されるときにはオピオイド鎮痛薬を選択する。
  • 鎮痛効果の増強につながるのでオピオイド鎮痛薬と非オピオイド鎮痛薬の併用が推奨されるが、2つのオピオイド鎮痛薬の併用は原則として回避する。

2.非オピオイド鎮痛薬

 非オピオイド鎮痛薬とは、一群の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンである。
 多くのNSAIDsには血小板や胃粘膜に対する障害作用がある。使い慣れた一つの非オピオイド鎮痛薬を選択し、副作用予防薬(ことに胃粘膜障害予防薬)を併用しながら投与する。
 アセトアミノフェンには胃粘膜や血小板に対する障害作用がなく、小児にも使いやすいが、大量投与は肝毒性をあらわすことに留意する。
    1. NSAIDs:
       多くの製剤がある (表4-1)。いずれを使う場合も長期投与となりうるので、添付文書を参照して処方する。アスピリンとほぼ同じ副作用対策、ことに胃粘膜障害予防薬併用、血小板機能や腎機能の監視に留意する。



表4-1 WHO方式がん疼痛治療法の鎮痛薬リスト (WHO 1996)

薬剤群   代表薬 代替薬

       
非オピオイド   アスピリン コリン・マグネシウム・トリサルチレート 1)
       
鎮痛薬   アセトアミノフェン
イブプロフェン
インドメタシン
ジフルニサル
ナプロキセン
ジクロフェナック
       
軽度から中等度の痛み用オピオイド鎮痛薬(弱オピオイド鎮痛薬)   コデイン デキストロプロポキシフェン 1)
ジヒドロコデイン
あへん末
トラマドール
       
中等度から高度の痛み用オピオイド鎮痛薬(強オピオイド鎮痛薬)   モルヒネ メサドン
ヒドロモルフォン 1)
オキシコドン
レボルファノール 1)
ペチジン2)
ブプレノルフィン 3)
       

1) 日本では入手できない薬。
2) 反復投与が推奨されていないが、他のオピオイド鎮痛薬が入手できない国があるため、表に残された薬。
3) 経口投与で著しく効果が減弱する薬。
注1:非オピオイド鎮痛薬の注射用製剤としてはフルルビプロフェンの注射剤(ロピオン
?)がある。
注2:便宜上の用語であった弱オピオイド、強オピオイドは、1989年のWHO専門委員会の協議での合意により、「軽度から中等度の痛み用オピオイド、中等度から高度のオピオイド」と呼ぶようになった。
注3:WHO専門委員会は、フェンタニルをこの表に含めておらず、本文でも紹介にとどめている
  • アセトアミノフェン(錠、末、坐剤):
    ・抗炎症作用がない。
    ・投与開始量は、500mg/回。4~6時間ごとの経口投与。
    ・1,000mg/回ほどが有効限界。

3.軽度から中等度の痛み用オピオイド鎮痛薬(弱オピオイド鎮痛薬)
  1. コデインリン酸塩(末、錠);
    ・麻薬。但し、1%散(100倍散)は非麻薬。
    ・軽度から中等度の痛み用オピオイドの代表薬でアゴニスト。
    ・経口投与開始量は20~30mg/回を4~6時間ごと
    ・ほぼ120mg/回が実地上の最大投与量。
    ・副作用の便秘は緩下薬(センノシドなど)の併用で防止できる。

  2. ジヒドロコデインリン酸塩(末、散;麻薬)
    ・経口投与による鎮痛効力はコデインリン酸塩の1.3倍、鎮咳効力は2倍。
    ・効力比を考慮した量で、コデインリン酸塩と同じ方針で使う。

  3. トラマドール(非麻薬)
    ・以前から注射用製剤(トラマール®注100mg)が導入されていたが、経口用製剤(トラマール®カプセル25mg、50mg)が発売された。
    ・トラマドールは中枢作用性の合成オピオイド鎮痛薬で、オピオイドμ-受容体作動作用を持ち、神経障害性の痛みへの効果も報告されている。経口用製剤の承認適応は、「軽度から中等度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛」であり、非オピオイド鎮痛薬の投与では効果が不十分な痛みに処方する。鎮痛効力比に議論があるが、経口投与ではモルヒネの1/5、コデインの1.2倍の鎮痛効力を持つとされ、代謝産物にも薬理作用がある。
    ・血中半減期は約6時間。成人では通常、100~300mg/日を4回に分割して反復経口投与するが、初回投与量を25mg/回(100mg/日)とすることが望ましい。
    ・副作用として嘔気、嘔吐、便秘などがあげられ、とくに便秘の発生頻度や程度がモルヒネに比べて低い。

4.中等度から高度の痛み用オピオイド鎮痛薬(強オピオイド鎮痛薬)

    1. 医療用オピオイドの年間消費量と、がんの痛みへの医療対応との関連

      ・「中等度から高度の痛み用オピオイド鎮痛薬」のうち麻薬指定の薬の国ごとの年間消費量は、その国のがんの痛み治療の普及度ないし水準を示す国際的指標のひとつである(WHO 1989)。
      ・日本での2007年と2008年の医療用モルヒネ年間消費量は0.38トンおよび0.34トン、オキシコドン0.36トンおよび0.44トン、フェンタニル0.018トンおよび0.019トンであった(厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課:麻薬・覚せい剤行政の概況、2009)。
      ・因みに、2007年の世界全体の医療目的の年間消費量をみると、オキシコドン51.60トン、モルヒネ39.44トン、フェンタニル1.34トンで、いずれも増加中であるが、これらの大部分が先進国の医療で消費されている
      ・単位人口あたりの国際間比較では、先進諸国のなかで日本の年間消費量は少なく(アメリカの20分の1程度)、がん患者の潜在的需要を満たしていない状況を示唆し、がんの痛みのマネジメントの知識の普及と実践の促進が必要である。


  1. 医療用麻薬の取り扱い

    ・モルヒネなど麻薬に指定されている薬を処方するには、麻薬施用者の免許が必要である。
    ・医療を目的としたモルヒネ等の医療用麻薬の投与に関しては、その投与量、投与日数および投与経路について、患者の状況に応じ、麻薬施用者である医師の判断に基づき行われる。
    ・麻薬施用者等には、麻薬の管理と施用、払い出し等の記録および事故等についての届出などが義務付けられている。この義務は麻薬に関する世界的な取り組みを求める条約に基づき、麻薬の不正使用や流用を防止するためのものであって、医療目的の麻薬使用を制限するとの意図はない。これらに必要な所定の手続きは都道府県の薬務主管課で容易に行うことができる。
    ・一枚の処方箋による処方日数は、痛みの状況、通院の難易度等を考慮して処方医が決めてよい。しかし、1枚の処方せんで処方できる保険医療上の限度日数は多くの経口オピオイドについて30日であることに留意する(製剤ごとに確認すること)。
    ・在宅ケアに必要なモルヒネ等の麻薬は、院外麻薬処方せんに基づいて患者に身近な調剤薬局から交付されることが望ましい。

    注)医療用麻薬の管理や調剤、患者による薬の自己管理等の詳細については、本書の参考文献欄に示すマニュアルやガイダンスを参照のこと。

  2. 耐性と依存

    (1)耐  性(tolerance)
     麻薬指定のオピオイド鎮痛薬の適切な投与では耐性の発生は一般に緩徐であり、発生しても増量で対応でき、実地上の問題となることはない。

    (2)身体的依存(physical dependence)
     後述するように、モルヒネ等のオピオイド鎮痛薬の長期投与を安全に中止する方法が確立されており、退薬症状をはじめとする臨床上経験される身体的依存*についても、臨床使用を妨げるものではない。 (*身体的依存とは、反復投与により薬が体内に長い間存在して作用し続けたため、生体が薬の効果に適応して身体機能を営むようになった結果、薬の効果が急に弱まったり、消失したりすると身体機能がバランスを失って退薬症状が出現する状態をいう。)

    (3)精神的依存(psychological dependence)
     モルヒネ等の麻薬指定のオピオイド鎮痛薬が、痛みに対して適切に用いられた場合、精神的依存*を起こさないことが臨床的に観察されており、痛み治療におけるオピオイド鎮痛薬の使用を妨げるものではない。
    (*精神的依存とは、薬の特定の薬理効果を体験するために、薬の摂取に強い欲求をもった状態、あるいは欲求のため薬を探し求め、入手しては使用している状態をいう。)動物実験では痛みがある生体は精神的依存の発生を抑制する機序を持つようになることが示されている。

    (4)モルヒネ(麻薬)
    ・臨床上の使用経験が200年以上ともっとも長く、もっともよく研究されてきたオピオイド鎮痛薬の代表基準薬である。
    ・いくつもの薬理作用があり、緩和ケアでは痛みに加え、呼吸困難(頻呼吸を伴う息切れ)、強い咳や下痢の治療にも使われる。鎮静目的の使用は推奨されていない。
    ・催吐作用や止痢作用は鎮痛必要量よりも少ない量で現れ、催眠作用や呼吸抑制作用は鎮痛必要量よりも多い量で現れる(図4-2)。これらの作用の出現は副作用となるので、その予防策が必要である。
    ・反復投与しても蓄積が起こりにくい。
    ・モルヒネへの鎮痛効果発現には大きな個人差があるが、体内薬物動態が線形のため、投与量の調整が容易である。



・モルヒネなどのオピオイド投与の可否は生命予後の長短ではなく、痛みの強さによって決める。
・有効限界がないため増量すれば鎮痛効果が増強するが、痛みによっては十分に奏効しないことがある(例えば、神経障害性の痛み、筋攣縮痛など)。
・肝機能障害、腎機能障害、栄養不良、高齢などはモルヒネの禁忌ではない。しかし、薬剤代謝能低下と反応性の増大を考え、通常より少ない量で開始する。
1)モルヒネの製剤
a.速放性経口用製剤
 即効性があり、4時間ごとの投与によって効果、副作用、実地上の便宜の間に最適のバランスが得られる。臨時追加量(rescue dose)としても用いられる。
・モルヒネ塩酸塩末
・塩酸モルヒネ錠10mg/錠(モルヒネ塩酸塩錠DSP®
・スティック入りモルヒネ塩酸塩水溶液製剤(オプソ®

b.徐放性経口用製剤
 長期反復投与に便宜をはかる目的で開発された製剤で、即効性には乏しい。
・12時間ごとの投与ですむモルヒネ硫酸塩徐放錠(MSコンチン®10mg錠、30mg錠、60mg錠)があり、カプセル(MSツワイスロン®)や粒剤(モルペス®)もある。
・24時間ごとに投与するモルヒネ硫酸塩徐放性カプセルおよび粒剤(カディアン®20mg、30mg、60mgカプセルと30mg、60mg、120mg包装の粒剤)、24時間ごとに投与する錠剤(ピーガード錠®20mg、30mg、60mg、120mg)、モルヒネ塩酸塩徐放製剤(パシーフ®30mg、60mg、120mgカプセル)がある。

c.直腸内用製剤
・8時間ごとの投与ですむモルヒネ塩酸塩坐剤(アンペック坐剤®)10mg、20mg、30mg坐剤)

d.注射用製剤
・1%モルヒネ塩酸塩注射液(10mg/1ml/アンプル、50mg/5ml/アンプル)
・4%モルヒネ塩酸塩注射液(200mg/5ml/アンプル)
 持続皮下注入等に便宜をはかった製剤で、注入器に装填した製剤(プレペノン®)もある。

注)モルヒネ塩酸塩もモルヒネ硫酸塩も臨床的には同効である(公式表記が変更になり塩酸モルヒネがモルヒネ塩酸塩、硫酸モルヒネがモルヒネ硫酸塩と呼ばれるようになった)。
2)モルヒネ経口投与法
・推奨経口投与開始1日量は30~60mg/日。
・投与開始時から便秘と嘔気の予防策を確実に実施する(表4-3)
注)1日量5~10mgなど少なすぎる量で開始すると、患者が鎮痛効果を実感する前に嘔気が現れることがある。動物実験からの報告では、50%の動物に鎮痛が得られるモルヒネ量を1としたとき、0.02の量で50%の動物に便秘が、0.1の量で50%の動物に嘔気が発現するという。念頭におき、参考とすべき基礎薬学からの報告である。
・速放性経口用製剤で投与を開始すると、徐放性経口用製剤によるよりもずっと短い時間で鎮痛効果判定ができる。
・速放性経口用製剤は1日量を6分割して4時間ごとに投与する。投与開始後、遅くとも翌日には効果を判定する。在宅患者での効果判定は、往診時だけでなく電話なども活用して行う。
痛みが残っていて眠気がないなら
→ 30~50%増量(ただし、30mg/日で開始したときには60mg/日に増量)
痛みは消えたが、眠気が強ければ
→ 30~50%減量
・以後も効果に応じて、30⇔60⇔80/90⇔120⇔180⇔240mg/日と増減調整して次回投与時刻まで痛みが消失する量を求める。
注)モルヒネの速放性製剤の4時間ごとの標準投与時刻:起床時(午前6時)、午前10時、午後2時、午後6時、就寝時(午後10時)。就寝時に2回分を投与して深夜投与を省く。
・大部分の患者で30~240mg/日の間のいずれかの量で痛みが消失するが、ときにはもっと大量が必要となる患者がいる。
・痛みが消える量を得たら、徐放性経口用製剤に切り替えると反復投与が簡便化する。
・モルヒネを数回増量しても少しも効果が得られないことがある。そのときには痛みの性状を見直し、鎮痛補助薬の要否を検討する。また、患者の心理状態の検討が必要なこともある。
3)モルヒネの非経口投与法
・直腸内投与:
 モルヒネ塩酸塩坐剤(アンペック坐剤®)を経口投与量の2/3量で用いる。直腸内に一度に挿入できる坐剤数には限度がある。
・皮下注射、静脈内注射:
 1日の経口投与量の1/2量を1日量として皮下または静脈内に投与する。4時間ごとのワンショットの注射の反復は避け、持続皮下注入とする。静脈路が確保されている患者では、それを利用してもよい。ただし大量点滴液中にモルヒネを混入するのを避け、モルヒネを小瓶に入れ、もしくは持続微量注入ポンプなどで、側管経由で使用中の点滴セットにつなぐとよい。
・持続注入中に痛みが増強したとき患者自身で臨時追加投与ができる患者自己調節鎮痛法(patient-controlled analgesia:PCA)ポンプを用いることもできる。
・硬膜外注入、髄腔内注入:
 硬膜外には経口投与の1/10~1/15量、髄腔内には1/50~1/100量と少量ですみ、鎮痛効果持続時間は長いが、行動制限や感染の危険のため実際に使われることは少ない。

5.オキシコドン(麻薬)

・アヘンアルカロイドのテバインから半合成された天然素材のアゴニストで、モルヒネのほぼすべてを代替する。
1916年に開発されたオキシコドンは、アセトアミノフェンやアスピリンとの配合剤としてアメリカやイギリス等で発売され、非オピオイドの有効限界のために使用量が制約されたことから、コデイン程度の薬とみなされた時代があった。1963年、オキシコドンの単独使用がモルヒネ同様にすぐれた鎮痛効果を持つとの臨床報告があり、以来オキシコドン単剤製剤がモルヒネ同様に使われ始め、モルヒネと同じような鎮痛効果があり、有効限界がないことが明らかになった。
2003年に徐放錠(オキシコンチン®錠)が、2007年に速放製剤オキノーム®散が発売され、オキシコドン単剤の注射剤の導入準備中である。
・いずれの経口用製剤も「中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛」が承認上の適応である。モルヒネと同じく、WHO三段階除痛ラダーの第3段階に位置づけられる。
・経口投与したオキシコドンが全身循環血中に移行する割合(oral bioavailability)が約80%とオピオイド中で最大である。これが経口投与で得られる鎮痛効力がモルヒネより大きい理由である。
・経口モルヒネの経口オキシコドンとの日本人がん患者における鎮痛効力比は、1:1.5とされている。
・オキシコドンは肝で代謝され、大部分が生物学的活性のないノルオキシコドンとなり、薬理活性のある中間代謝産物オキシモルフォンは微量しか産生されない。このため腎障害患者での眠気などの発生がモルヒネよりも少ない。

1)オキシコドンの製剤
a.速放性オキシコドン製剤(オキノーム®散):
2.5mg、5mg、10mgに分包された散剤で、6時間ごとに経口投与する(4時間ごとも可能)。オキノーム®散の定時投与はオキシコドンの経口投与法の基本をなし、また鎮痛適切量への増減調整、あるいはオキシコドン徐放錠投与中のrescue dose に適している。

b.オキシコドン徐放錠(オキシコンチン®錠):
5mg、10mg、20mg、40mg錠があり、12時間ごとに経口投与する。オキシコンチン®錠投与中の rescue dose としてオキノーム®散をオキシコンチンR錠1日量の1/4~1/8量で用いるのが一般的である。

c.オキシコドンの注射剤:
パビナール®(ヒドロコタルニン配合のオキシコドン注射剤)の歴史は古く、1920年代にさかのぼる。現在、オキコドン単剤注射剤の導入準備が進められている。

2)オキシコドンの経口投与法

・非オピオイド鎮痛薬による鎮痛効果が不十分な中等度ないし高度の痛みに処方する。
・投与開始量は、速放製剤オキノーム®散5mg/回の6時間ごと(4時間ごとも可能)。オキシコドンはモルヒネ同様の止痢作用を持つので、緩下薬の併用で予防する。催吐作用はモルヒネより弱いが、制吐薬の併用が望ましい。
・経口徐放製剤による痛みの管理は、患者にとり服薬が容易である。オキノーム®散による投与量調整が終了し次第、徐放製剤(オキシコンチン®錠)による12時間ごとの投与(1日量を2分する)に切り替えと徐放製剤への移行がスムースに行える。

注)経口モルヒネからの切り替え法:
経口投与中のモルヒネの1日量の2/3量のオキノーム
®散または徐放錠(オキシコンチン®錠)に切り替える。切り替え後も鎮痛効果に応じた増減調整に留意する。
3)オキシコドンの注射投与

 持続注入法や脊髄硬膜外投与の臨床経験は未だ不十分である。



6.フェンタニル(麻薬指定薬)

・フェンタニルは1960年に開発された合成アゴニストで、経口投与では初回通過効果が高くて薬理作用が得られ難いため、非経口的に用いられる。フェンタニル注射剤は1972年に日本に導入され、その適応は全身麻酔に限られていたが、現在の注射剤の承認適応では、激しい疼痛(術後痛、がん疼痛など)に対する鎮痛も承認されている。

・分子量が比較的小さく、分配係数からみて脂肪への溶解度が高く、効力の大きい薬は経皮投与できる。フェンタニルはこの条件を満たすため貼付剤(パッチ)が開発され、1991年にアメリカで承認され、次いで口腔粘膜吸収型のフェンタニル速放製剤がアメリカで発売された。

・フェンタニルは低用量では便秘の程度が軽いとされているが、緩下薬の併用が必要である。眠気やせん妄も少ない。痛みに対する長期使用で精神的依存と身体的依存が問題とならずにすむのもモルヒネ同様であるが、耐性の発現については議論がある。

1)フェンタニル貼付剤の種類と承認条件

 日本では2001年に72時間(3日)ごと貼付用のフェンタニル貼付剤(デュロテップ®パッチ;今はデュロテップ®MTパッチ)が導入され、2010年には24時間(1日)ごと貼付用のフェンタニル貼付剤(フェントス®テープ、ワンデュロ®パッチ)が発売された。使用にあたりこれら両者を混同しない注意が必要である(表4-2)。

 フェンタニル貼付剤のいずれの投与法も、呼吸抑制など重篤な副作用発現を回避するため、「オピオイド製剤の一定期間の使用に忍容性があり、継続投与が必要な時での他のオピオイド製剤から切り替え」であり、最初のオピオイド製剤として使うことは承認されていない。なお、一定期間の使用に忍容性がある患者とは、アメリカの添付文書によれば「等鎮痛用量の他のオピオイド鎮痛薬を1週間以上問題なく使用している患者」とされている。

アメリカ食品医薬品局(FDA)は、「最初のオピオイド製剤としてフェンタニル貼付剤を使うな」と複数回にわたり警告している。投与経路の性質上、鎮痛効果の判定、投与量の調整を短期間で行うことが難しく、初回投与が(呼吸抑制作用による)死亡事故につながった事例報告があったためであり、日本にも使用条件不遵守による死亡を含む重大な副作用事例があり「適正使用の徹底化」が進められている。

・デュロテップ®MTパッチは、がん疼痛と非がん慢性疼痛への適応も承認されているが、フェントス®テープ、ワンデュロ®パッチは、がん疼痛のみの承認である。

・      非がん慢性痛に使用中のオピオイドをデュロテップ®MTパッチに切り替えるときには、痛みの原因、心理的・社会的要因、依存リスクを含めた包括的診断のもとで適否を決めること。処方する医師には一定の研修を受講することが求められる。



表4-2 フェンタニル貼付剤の種類とモルヒネ製剤との切り替えの目安
2)フェンタニル貼付剤の使用法

・フェンタニル貼付剤は、皮下脂肪の多い健常な皮膚表面(胸部、腹部、上腕、大腿部など)に、デュロテップ®MTパッチの場合は72時間(3日)ごと、フェントス®テープ、ワンデュロ®パッチの場合は24時間(1日)ごとに貼付するが、いずれも貼付の都度、貼付部位を変更することが推奨されている。貼付部位の加温および体温上昇(例えば40℃以上)や圧迫は吸収を促し、血中濃度が急激に上昇することに注意する。また、発汗は吸収を妨げることに留意する。

・初回貼付後は少なくとも翌日まで、患者の状態の監視を強化する(除痛の程度だけでなく、呼吸と意識の変化も)

・      フェントス®テープ、ワンデュロ®パッチは、連日(毎日)の増量によって呼吸抑制が発現することがあるため、初回貼付後および増量後少なくとも2日間は増量を行わないこと。

・      フェンタニル貼付剤使用中における臨時追加量(rescue dose)には、口腔粘膜吸収型フェンタニル速放製剤(アクレフ®)、フェンタニル注射剤を使うが、これらが利用できない場合はモルヒネ坐剤、モルヒネ注射剤(経口投与が適切でない患者)などを使う。海外には、口腔粘膜吸収型、鼻粘膜吸収型などのフェンタニル速放製剤があり、日本ではこのうちの口腔粘膜吸収型速放製剤アクレフ®が発売準備中であり、他にフェンタニル口腔粘膜吸収製剤であるイーフェンバッカル錠が製造承認されている。いずれのrescue doseも経皮投与と異なる投与経路となるため、rescue doseについても用量調整が必要である。添付文書を参照しつつ使用する。以下にrescue doseの目安量を例示する:

 〔4.2mgデュロテップ®MTパッチまたは2mgフェントス®テープ貼付中のrescue doseの目安〕

 速放製剤アクレフ®の場合も用量調整が必要である(同じく添付文書を参照のこと)。フェンタニル注射剤の場合は、50μg/回ほどを15~30分かけた静脈内注入、または早送りの皮下注入(注入痛を伴うかもしれないので分割しながらの皮下注入、*印:適応外使用)。モルヒネ注射液の場合は、1.5~3mg/回を15~30分かけた静脈内注入、または早送りの皮下注入。その効果に応じて増減調整する。

 モルヒネ坐剤の場合は5~7mg/回となるが、便宜上10mg坐剤1個を使う。モルヒネの速放性経口製剤を使う場合は、10mg/回。

3)フェンタニル貼付剤使用時の注意点

・いずれの貼付剤も貼付開始から十分な鎮痛効果を得るまでに時間がかるので、先行オピオイドの効果が12時間は持続するよう配慮する。また、貼付剤を剥離してから薬理効果が消失するまでに長時間かかる(デュロテップ®では血中半減期が17時間以上、フェントス®テープ、ワンデュロ®パッチも同様に長い)。

・剥離後に薬理効果が継続する時間(効果持続時間)の長さは、オピオイド拮抗薬ナロキソンの効果持続時間よりも長いことを認識しておくことが実務上必要である。

・この薬理効果が継続する(あるいは消失するまでの)時間のギャップの大きさから、フェンタニル貼付剤による鎮痛至適用量への調整が能率的に行えない。このため、先行オピオイド投与中に鎮痛至適用量を求め、それと等鎮痛用量のフェンタニル貼付剤に切り替えることを基本方針とするよう推奨する。

・問題となる副作用もなく、適切な効果をあげている経皮投与に切り替えるべきではない。

・剥離した使用済み貼付剤を小児などが誤って舐めたりすると危険な結果をもたらすので、使用済み貼付剤の処理についての患者指導を怠ってはいけない。

・貼付や剥離の際に貼付剤の薬物放出面に触れた医療従事者や家族の手指から薬が吸収されることがありうるので、取り扱い直後に手を洗うよう指導する。

・温度が上昇するとフェンタニルの吸収量が増大し、過量投与になるため電気毛布等の外部熱源、熱い温度での入浴は避ける。

4)フェンタニル注射剤(フェンタニル注射液®、フェンタニル「ヤンセン」®

 持続静脈内注入法や持続皮下注入法(*適用外使用)で用い、また貼付剤使用の rescue dose としても用いる。フェンタニル注射剤の添付文書の使用上の注意に「低用量から開始する」と記載されている。実際には0.25~0.5μg/kg/時と少な目を投与開始量とし、鎮痛効果と副作用をみながら30~50%を目安に増量して至適用量を決めるとよい。この場合の rescue dose は1時間分の早送りである。モルヒネやオキシコドンはmg単位で注射に用いるが、フェンタニルはμg単位で注射に用いることに留意する。

 フェンタニル注射剤は硬膜外や髄腔内に注入できるが、手技に習熟した医師が適切と判断する患者のみに実施すべきである。

7.メサドン(麻薬)

 メサドンの錠剤が2013年に本邦で発売された。メサドンは合成麻薬で、本邦での適応は、「他の強オピオイド鎮痛薬で治療困難な下記疾患における鎮痛:中等度から高度の疼痛を伴う各種癌」であり、他の強オピオイド鎮痛薬の投与では十分な鎮痛効果が得られない患者で、かつオピオイド鎮痛薬の継続的投与を必要とするがん疼痛の管理にのみの使用に限って認可された。
 メサドンは、複雑な薬物動態学的特性、反応に個体間の大きい差があり、便秘や嘔気などの他に、心電図上のQT間隔の延長や心室頻拍などの重篤な副作用がありうるため、オピオイド鎮痛薬の使用に習熟し、本剤の使用について十分な知識を持ち、リスク等について十分に管理・説明ができるような研修を受けて登録された医師のいる医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとで用いられ、薬局においては調剤前に当該医師・医療機関を確認した上で調剤する必要があり、また全症例の使用成績調査を実施する必要がある。詳しくは、添付文書を参照されたい。
 なお、メサドンから他の強オピオイド鎮痛薬への変更については換算比が確立していないため、切り替えが必要な場合は経験のある専門家にコンサルトすることが勧められる。

8.ブプレノルフィン(非麻薬)

・部分的アゴニスト。経口投与には適さないため、坐剤(0.2mg坐剤、0.4mg坐剤)か、注射用製剤(0.2mg/1ml/アンプル、0.3mg/1.5ml/アンプル)を使う。

・いずれも投与開始量は0.2mg/回の8時間ごと。0.2~0.4mg/回が使われることが多いが、坐剤では1日量4mg付近、注射では1日量2mg付近が有効限界。

・副作用は、モルヒネとほぼ同じ。同じ予防策が必要。

9.ペチジン(麻薬)
・合成アゴニストで、鎮痛効力はモルヒネの1/8。その反復投与は、筋の攣縮、ミオクローヌス、痙攣などの中枢性副作用のため推奨されていない。
10.アゴニスト・アンタゴニスト
・ペンタゾシン(錠、注射用製剤、非麻薬)などがあるが、アメリカ疼痛学会等は、副作用の点から反復投与を避けるよう勧告している。
11.その他のオピオイド鎮痛薬
・モルヒネやペチジンとアトロピンなどとの配合注射剤、ブトルファノール、その他があるが、急性痛に用いられており、がんの痛みへの使用は推奨されていない。
12.オピオイド鎮痛薬の鎮痛作用以外の薬理作用の出現予防策

 オピオイド鎮痛薬は多くの薬理作用を持ち、鎮痛を目的に用いるときにも鎮痛作用以外の薬理作用が出現して副作用となる。その発生の程度にオピオイドごとの差があるが、副作用には予防策が必要である(表4-3)。

 予防策が不十分であると、患者の拒薬につながることがある。

 ・嘔気予防策
 オピオイド、ことにモルヒネ投与開始時から中枢作用の制吐薬を併用して嘔気の発生を予防する。制吐薬としてはプロクロルペラジンの併用が推奨されているが、オピオイドによる消化管の蠕動低下が主因の嘔気にはメトクロプラミドを、めまい感を伴う嘔気にはジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合薬を考慮する。約2週にわたり嘔気がなければ、制吐薬併用の中止を考慮する。ドパミン拮抗作用がある制吐薬では、副作用のアカシジア(静座不能症)に注意する。

ハロペリドールが効果的であるが、制吐目的の使用は承認適応外なので、適応のある薬が効果不十分なときに考慮する。

 ・便秘予防策
 モルヒネをはじめとするオピオイドの多くは強力な止痢薬である。排便に異常がない患者では一般にオピオイド投与により便秘が発生する。そのため、オピオイド投与開始時から緩下薬(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど)を併用し始め、投与中の全過程にわたり平常通りの便通が維持できる量で併用する。線維成分の多い食事の摂取、酸化マグネシウムの内服、浣腸、坐剤、摘便なども考慮する。便秘対策不十分だと宿便に至ることがある。

 ・その他の薬理作用出現の予防策

  予防策を表4-3に示した。



表4-3 オピオイドの鎮痛作用以外の薬理作用の発現予防策


13.オピオイド・ローテーション
・あるオピオイド鎮痛薬の鎮痛作用以外の薬理作用の出現が、適切な予防策によっても制御しにくいとき、他のオピオイドに切り替えると解決することがある。このような目的の切り替えをオピオイド・ローテーションまたはオピオイド・スウィッチングと呼ぶ。がんの痛みに対して日本で可能なオピオイド・ローテーションは、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル3者間の切り替えである。
・経口モルヒネと経口オキシコドンとの間の切り替えには投与経路の変更がなくてすむ利点がある(オピオイド・ローテーションが実際に必要なことは多くはない)。
14.オピオイドの反復投与が不要になったとき(中止方法)
・モルヒネの長期投与を安全に中止する方法(漸減法)が確立されており、他のオピオイドの場合にも応用しうる。
・まず、投与量を半減し、2~3日続ける。
・問題がなければ、さらに2~3日ごとに半減していく。
・経口モルヒネ換算で30mg/日以下となったら、これを2~3日続け、次いで投与間隔時間を長くし、それでも問題がないなら中止に至る。


IX.鎮痛補助薬(adjuvant drugs)

 鎮痛補助薬とは、痛みのマネジメントにおいて次の目的で使われる薬の総称である。
・痛みに伴う精神的症状の解消
・鎮痛薬の副作用の予防
・神経障害性の痛みなどの特殊な痛みの治療
1.痛みに伴う精神的症状に用いる薬
・強い不安にはジアゼパム、ロラゼパム、アルプラゾラム、クロルプロマジン、ヒドロキシジンなど。
・抑うつには、アミトリプチリン、ノルトリプチリンなどの三環系抗うつ薬。最近は、選択的セロトニン再取込み阻害薬(フルボキサミン、パロキセチン)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(ミルナシプラン、デュロキセチン)も用いられている。
・せん妄には抗精神病薬ハロペリドール。
2.鎮痛薬の副作用の防止に用いる薬
・制吐薬、緩下薬など(表4-3)
3.特殊な痛みの治療に用いる薬

1)神経障害性の痛み
 臨床経験に基づく使い方で、痛みへの使用が承認適応外となる薬が多いことに留意する。主な薬を示すが、カッコ内は鎮痛補助薬として推奨されている投与開始量であり、効果に応じて増量調整する。薬の選択順序の国際的な議論は収束していない。

・三環系抗うつ薬
 アミトリプチリン(10~25mg、1日1回経口投与;鎮静作用があるので就寝時に)、ノルトリプチリン(10~25mg、1日1回経口投与;鎮静作用が少ない)。両薬ともに効果が確実になるのは投与開始2週間後である。

・抗不整脈薬:
メキシレチン(50~100mg/回を1日3回経口投与)
フレカイニド(50mg/回を1日2回経口投与)
リドカイン(注射用製剤3~5mg/kgを40~50分かけて静脈内点滴または30~50mg/時間の持続静脈内注入ないし持続皮下注入)

・抗けいれん薬(とくに放散性の痛みに有効):
バルプロ酸ナトリウム(200mg/回を1日2~3回経口投与)
カルバマゼピン   (100~200mg/回を1日1~2回経口投与)
クロナゼパム    (0.5mg/回を1日1~2回経口投与)
ガバペンチン    (100~1,200㎎/回、1日3回)

・N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬
 ケタミン(麻薬;0.1~0.15mg/kg/時間の持続皮下ないし持続静脈内注入。一部の施設では試験的な皮下注入や経口投与を行っているとの報告がある)。臨床的に使用が可能である他のNMDA受容体拮抗薬として、アマンタジン、イフェンプロジル、デキストロメトロファンなどがあるが、いまだ研究段階である。
2)骨転移痛
・非オピオイドやコルチコステロイド(あるいは放射線照射)をオピオイド鎮痛薬と併用する。
・ストロンチウム89製剤
・ビスホスフォネート(ゾメタ®
3)脊髄圧迫や頭蓋内圧亢進による痛み(運動麻痺を伴う神経障害性の痛みの場合も)
・コルチコステロイド(ベタメタゾン、プレドニゾロンなど)
4)消化管の疝痛
・臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン®
X.薬以外の痛み治療法

 薬以外の治療法の多くには次の特徴があり、専門的訓練・専門的設備を必要とするものが多い。
・除痛率は高いが、無効例もある。
・除痛期間には長短があり、永久的に効果が続く方法はない。
・痛みが再発したとき、再施行できるとは限らず、また施行後慢性期に治療しにくい痛みが合併することのある治療法もある(例えば、経皮的コルドトミー)。

1.神経ブロック:支配神経を遮断して除痛する方法で、適応がある場合には、有効性、安全性などを説明し、患者の同意のもとに施行する。運動神経遮断を避ける注意が必要である。
主な神経ブロックは:
・腹腔神経叢ブロック:対象は膵がんなどによる上腹部痛
・サドルブロック:対象は肛門部に限局した痛み
・硬膜外ブロック:対象は体下半部の限局した痛み
・交感神経ブロック:交感神経が関与した痛み

2.脳神経外科的治療法:経皮的コルドトミー、下垂体ブロックなど。

3.放射線照射:骨転移痛を主対象とする。

4.理学療法:マッサージ、リラクゼーション、冷罨法、温罨法、鍼灸などを補助的方法として用いる。

5.心理療法:補助的役割を果たす。痛みに苦しむ患者の心を大きく助けるのは、共感と理解をもって患者と共に痛みと戦う医師や看護師の姿勢である。


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