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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第1章■ 緩和ケア

 がんによる身体的苦しみや精神的苦しみからの解放は人類の大きなテーマである。がんは進行するにしたがい症状も深刻かつ多彩となり、緩和ケアが未発達の時代には患者を著しく苦しめた。この悲惨な状況からがん患者を解放することを目指して努力を重ねた西欧の先覚者による科学と人間愛に根ざした努力の蓄積が、20世紀後半における「終末期ケア」の確立につながり、がん患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の改善を実現した。

 そのような医学的なケアをがん医療全般に導入し、病状の進行度にかかわらず全がん患者、さらにその他の慢性疾患患者の全経過において実践すべきと1989年にWHO(世界保健機関)が提唱し、これを「緩和ケア」と呼ぶようになった。
 緩和ケアの最良の実践には、患者中心のチームワークによる取り組みが重要である。施設内ケアの実践は医師、看護師、薬剤師等によるチームワークによって、また、在宅緩和ケアの実施には地域の病院、診療所、訪問看護ステーション、調剤薬局等の密接な連携によって促進され、充実される。

I.緩和ケアの定義と実践内容

 緩和ケアの定義には多少の変遷があるが、基本的な考え方は大きく変わっていない。1989年、WHOは、緩和ケアを「治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患を持つ患者に対して行われる積極的で全体的な医学的なケア」と定義した。「治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患」とは、致死的な疾患のみを意味するのではなく、治療に反応しなくなったまま長期間にわたって経過する慢性疾患も含んでいる。緩和ケアの目標は、患者と家族にとり可能な限り良好なQOLを実現することであり、がん病変の治療を受けているいないにかかわらず、すべての患者に対して緩和ケアを実施する必要がある。このような考え方を反映し2002年、WHOは、緩和ケアの定義を次のように改訂した。
  「緩和ケアは生命を脅かす疾患に起因した諸問題に直面している患者とその家族のQOLを改善するアプローチで、痛み、その他の身体的、心理的、スピリチュアルな諸問題の早期かつ確実な診断、早期治療によって苦しみを防止し、苦しみから解放することを目標とする。」

 緩和ケアは、「病むこと」を病態生理学的異常としてのみではなく、患者が苦悩し、家族が打撃を受けるという視点からもとらえ、主として次の事項を実践する:

  1. 生きることを尊重し、誰にも例外なく訪れる「死に行く過程」にも敬意を払う。
  2. 死を早めることも、死を遅らせることも意図しない。
  3. 痛みのマネジメントと同時に、痛み以外の諸症状のマネジメントを行う。
  4. 精神面のケアやスピリチュアルな面のケアも行う。
  5. 死が訪れるとしたら、その時まで積極的に生きていけるよう患者を支援する。
  6. 患者が病気に苦しんでいる間も、患者と死別した後も家族の苦難への対処を支援する。

II.緩和ケアの実践システム

 緩和ケアは、在宅、入院、デイケアないしショートステイ、コンサルテーション・サービス(例えば、緩和ケアチームの活動)などの方法で行うことができる。緩和ケアは家庭こそがケアの第一の場所として重視する。

 緩和ケア病棟等の専門施設への入院は、とくに症状からのすみやかな解放を実現するために不可欠であるが、同時に、専門入院施設は在宅でのケアをバックアップし、緩和ケアに関する研修の場、また緩和ケアの臨床研究の場として機能する必要がある。  デイケアないしショートステイは在宅では実施しにくいケアを補うとともに、在宅患者の介護にあたっている家族の休息を得るためにも広く活用することを検討すべきである。

 緩和ケア病棟等の専用施設がない場合には、病院内の緩和ケアチームが各科の患者に対する緩和ケアを実施する方法をとるとよい。各診療科の主治医は入院中および外来通院中のがん患者が抱く心身両面の痛み、苦しさ、つらさを敏感に察知し、緩和ケアの専門的知識とスキルを持つ同僚医療職の協力を早くから求めて対応するよう努めるべきである。


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