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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第8章■ 家族のケア

IV.患者と心おきなく過ごせる環境を整える

1.療養環境
 入院中の終末期患者と家族が過ごす適切な環境条件については、少なくともプライバシ-が守られ、静けさが保証されている部屋を準備する。個室が望ましいが、多床室でも工夫すればその環境に近づけることができる。終末期に至った入院患者とその家族が外泊や在宅での医療を望むことがある。患者と家族が心おきなく過ごすための環境を求めての選択であることが多い。この希望は可能な限り実現させる。

2.患者・家族間のコミュニケーションの促進
 患者に病名と病状が伝えられていないと、患者と家族の間のコミュニケーションが阻害され、自然体で会話を交わすことが困難になる。そうなると患者が果たそうと考えている家庭、社会、仕事における役割や感情の整理が遂行できず、それを助けるという家族の役割も果たせなくなる。こうしたことを防ぐには、早いうちから患者本人に病名や病状を伝えておく必要があり、家族には患者本人に伝えることの意味を理解してもらう。

3.患者の心への対応
 「なぜ私だけが死ななければならないのか」「私の人生に意味があったのか」など、スピリチュアルな痛みを患者がためらうことなく表現できる対象は家族であることが多い。共に過ごした思い出を回想しながら患者と話し合うよう促し、患者をもっとも癒せるのは家族であることを伝える。

V.死が間近に迫ったときの諸症状とその対応法について説明する

 死が間近に迫ったときには、心身の衰えに伴い諸症状が出現する。諸症状に対する家族の過度な不安を避け、悔いのない看取りができるよう、次のことについて説明する。

1.努力呼吸と死前喘鳴
 意識の低下により唾液や痰が声帯付近に貯留し、努力様の呼吸とともにゼイゼイという音(死前喘鳴)が出るが、患者は苦しさを感じていないこと、唾液や痰の頻回の吸引は患者を苦しめ、得られる利益が少ないことを伝える。

2.患者の聴覚
 患者の聴覚は最後まで残るため、ベッドサイドでは患者が不安を感じると思われるような話をしないよう指導する。患者からの応答がなくとも名前で呼びかけ、話しかけ、身体をさするなどによるコミュニケーションを続け、患者に安らぎを与えるよう伝える。

3.蘇生術
 心停止や呼吸停止に対する蘇生術は、がんの終末期においては必要でないことが多い。蘇生術は患者に無用な身体的負担をかけ、得られる利益は少ない。このことを患者や家族に説明し、主治医が DNR(do not resuscitate)の書式を準備しておくと、緊急事態への対処方針が当直医に混乱なく伝わる。
 また、患者が決断できない状態に陥った場合に備え、患者の意志を確認しておくことや患者の考え方に基づいて代理決断する人を前以って患者に指名してもらうことも考慮するとよい。

4.鎮 静
 終末期には、いかなる緩和方法を駆使しても耐えがたい苦しみが緩和しないことがある。その場合に鎮静を必要とすることがあるが、鎮静については事前に説明しておかなければならず、その実施には患者の意思と家族の了承が必要である。最近は、意思疎通ができないような深い昏睡に陥らせる鎮静だけでなく、短時間作用型の睡眠導入薬を昼食後に与えて2~3時間の午睡をとる方法から開始することが提案されている。午睡が患者の心身のスタミナ回復に有益である(Twycross 2010)。こうした方法も踏まえ、予め患者と話し合っておく

VI.予期的悲嘆を促す

 患者の死が訪れる前に、家族は患者の死を想定して喪失感を抱き、心理的反応を示す。これが予期的悲嘆である。家族の予期的悲嘆の体験は患者の死が現実になったときの衝撃や悲嘆を軽くするとともに、悲嘆からの立ち直りを早めることがある。辛さや悲しみを心に秘めておくよりも表現した方がよいと家族に伝え、辛さや悲しみを受け止め、必要なときには感情を表出するよう促し、家族が患者を十分に介護できたという充実感を持てるように側面から支援する。

VII.死別後の家族へのケア

 患者の死後、家族の悲嘆はさまざまな形で表現され、一定の心理過程を経て悲嘆作業は終結する。家族の一員を失ったことによる悲嘆は人間の正常な反応であることを理解して、終結するまでの期間、家族を見守っていく。日本では死別後ケアは家族や親戚、親しい友人などの人間関係の中で行なわれてきたが、欧米諸国では医療従事者が行っている。核家族化が進む最近の日本においても、死別後の家族のケアへの医療従事者の取り組みが必要になることがある。ホスピス・緩和ケア病棟のなかには、このことに取り組んでいる施設がある。


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