モルヒネをはじめとするオピオイド鎮痛薬は多くの薬理作用を持ち、鎮痛に用いるときにも鎮痛作用以外の薬理作用が出現して副作用となるので、その予防が必須である(表4−2)。予防策が不十分であると、患者の拒薬につながることがある。
モルヒネの鎮痛作用以外の薬理作用の出現が制御しにくいときには、他の強オピオイド鎮痛薬の同効量に切り替えるとおおむね解決する。このような目的の切り替えをオピオイド・ローテーションまたはオピオイド・スウィッチングと呼ぶ。
オキシコドン、フェンタニルが入手できるようになり、わが国でもオピオイド・ローテーションが可能になった。ことに経口モルヒネと経口オキシコドンとの切り替え時には投与経路の変更がなくてすむという利点がある。
(1) オキシコドン(麻薬指定薬)
・アヘンアルカロイドのテバインから半合成されたアゴニストで、モルヒネのほぼすべてを代替しうる。ヒドロコタルニンを配合したオキシコドン注射液(パビナール®)が導入されていたが、2003年に徐放錠オキシコンチン®が、2007年に速放製剤オキノームが承認され、経口投与が行われている。承認適応は「中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛」である。
・経口投与したオキシコドンは、経口モルヒネの1.5倍の鎮痛効力を持ち、鎮痛作用には有効限界がない。
・速放製剤のオキノームは2.5mgと5mgに分包された散剤であり、6時間ごとに経口投与する(必要なら4時間ごとも可能)。オキノームの定時投与はオキシコドンの経口投与法の基本をなし、また沈痛適切量への増減調整にも適している。オキシコンチン®には、5mg、10mg、20mg、40mg錠があり、12時間ごとに投与する。徐放錠オキシコンチン®投与中に臨時追加量(rescue
dose)が必要な時はオキシコンチン®1日量の1/4〜1/6(この量に直近の2.5ないし5の倍数のmg数)のオキノームを用いる。
・オキシコドンはモルヒネ同様の止痢作用を持つので、緩下薬の併用で予防する。催吐作用はモルヒネよりも弱いとされている。
・オキシコドンの鎮痛作用は主として未変化体による。オキシコドンは肝で代謝され、大部分が生物学的活性のないノルオキシコドンとなり、薬理活性のある中間代謝産物オキシモルフォンは微量しか産生されない。このため腎障害患者での眠気やせん妄の発生がモルヒネ投与時よりも少ない。
・オキシコンチンの経口投与法
痛みが軽度から中程度であって非オピオイドが効果不十分なとき:
投与開始量は5mg/回を12時間ごと。その効果に応じて増量調整する
痛みが中程度から高度なとき:
投与開始量は10mg/回を12時間ごと。その効果に応じて増減調整する
モルヒネから切り替えるとき:
経口投与中のモルヒネの1日量の2/3量を2分割した量を12時間ごとではじめ、その効果 に応じて増減調整する
(2)フェンタニル(麻薬指定薬)
・合成アゴニストである。経口投与には不向きな薬なので、パッチ剤(デュロテップR)や注射(フェンタネストR)として使用する。フェンタニルは副作用としての便秘の発生がきわめて少ない。
・フェンタニルパッチ(デュロテップR)は、がん患者の痛みのマネジメントにおいて他の強オピオイドからの切り替えが必要な場合に選択する剤形として承認されており、フェンタニル含有量が異なる次の4種類がある。また、他の形式のパッチ剤の治験が進められている。
2.5mgパッチ:経口モルヒネ45〜134mg/日からの切り替え用
5 mg パッチ:経口モルヒネ135〜224mg/日からの切り替え用
7.5mgパッチ:経口モルヒネ225〜314mg/日からの切り替え用
10 mgパッチ:モルヒネ投与から10mgパッチに切り替えたとの報告はほとんどない
・デュロテップRは健常な皮膚面に貼付する。貼付部位の加温や圧迫を避け、また同じ部位への貼付の繰り返しを避ける。
・デュロテップR貼付中の臨時追加量(rescue dose)には、同一成分の速放製剤を用いるのが原則で、フェンタニル注射液(フェンタネストR)しか入手できないが、フェンタネストRが使えない場合には、モルヒネの注射液、坐剤、または速放性経口製剤を使うほかない。海外では、口腔粘膜吸収型のフェンタニル速放性製剤などがあり、日本で治験進行中のものもある。しかし、いずれも用量については国際的合意に至っていない。
・そこで、2.5mgパッチ使用時の臨時追加量の目安を示す。この目安による効果に応じた増減調整が必要なことが多い。また、この目安を参考に5.0mgや7.5mgパッチ貼付中の臨時追加量を算定してよい。
2.5mgパッチ貼付中の臨時追加量のおよその目安:
フェンタニル注射液(フェンタネストR)の場合は、50μg/回ほどを15〜30分かけた静脈内持続注入、または早送りの皮下注入(注入痛を伴うかもしれないので分割しながらの皮下注入)。
モルヒネ注射液の場合は、1.5〜3mg/回を15〜30分かけた静脈内持続注入、または早送りの皮下注入。 モルヒネ坐剤の場合は5〜7mg/回となるが、便宜上10mg坐剤1個を使う。
モルヒネの速放性経口製剤の場合は、10mg/回。
・デュロテップR使用にあたっての留意点
72時間ごとの貼付で鎮痛効果が維持できる剤形であるが、初回貼付では十分な鎮痛効果が現れるまでにおよそ12時間かかることへの対策が必要である。痛みが残存あるいは再出現した場合の用量調整にも時間がかかることに留意する。
→ 例えば、MSコンチン錠Rから切り替えるときには、貼付開始時 にMSコンチン錠R1回分を経口投与しておく。オキシコンチンRから切り替える場合も同様である。モルヒネの速放製剤から切り替えるときには、貼付開始時、4時間後、8時間後の3回は速放製剤を経口投与する。
・パッチを剥離してから薬理作用が消失するまでの時間が半日以上と長いことにも留意する。
・剥離した使用済みパッチを誤って舐めたりすると危険な結果をもたらすので、使用済みパッチの処理方法の指導を怠ってはいけない。
・注射用製剤(フェンタネストR)にも、がんの痛みに対する適応が承認され、パッチ貼付中の臨時追加量(rescue
dose)として、あるいは持続皮下注入等におけるモルヒネの代替薬として使用される。
フェンタニル注射用製剤の投与量については添付文書の使用上の注意に「低用量から開始する」となっている。実際には0.25〜0.5μg/kg/hrと少な目を投与開始量とし、鎮痛効果と副作用をみながら30〜50%を目安に増量して至適量を決めるとよい。臨時追加量(rescue
dose)としては1時間分を早送りで投与する。
(3)ブプレノルフィン(麻薬非指定薬)
・部分的アゴニスト。経口投与には適さないため、坐剤(0.2mg坐剤、0.4mg坐剤)と注射用製剤(0.2mg/1ml/アンプル、0.3mg/1.5ml/アンプル)を使う。
・いずれも投与開始量は0.2mg/回の8時間ごと。0.2〜0.4mg/回が使われることが多いが、坐剤では1日量4mg付近、注射では1日量2mg付近が有効限界。
・副作用は、モルヒネとほぼ同じ。同じ予防策が必要。
(4)ペチジン(麻薬指定薬)
・合成アゴニストで、鎮痛効力はモルヒネの8分の1。その反復投与は、筋の攣縮、ミオクローヌス、痙攣などの中枢性副作用のため推奨されていない。
(5)アゴニスト・アンタゴニスト(麻薬非指定薬)
・ペンタゾシン(錠、注射用製剤)などがあるが、国際学会等では、副作用の点から反復投与は推奨されていない。