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■第4章■ 痛みのマネジメント

VI.痛みの診断(アセスメント)


 効果的な痛みのマネジメントの前提は、次の手順による痛みの診断である。
  • 患者の痛みの訴えを信じ、軽視しない。
  • 鎮痛薬を用いて痛みを和らげて痛みの診断を進める。
  • 痛みの経過を聞き、次の点から痛みの強さを軽度、中程度、高度に分けてとらえる。
     痛みによる行動制限や不眠の程度
     過去に体験した痛みとの対比
     投与中の鎮痛薬の効果
  • 侵害受容性の痛みか、神経障害性ないし神経因性の痛みか、両者が混在した痛みか、持続性の痛みか、間欠的な痛みか、関連痛か、などを把握する。
  • 患者の心理状態を把握する。
  • 理学的診察を慎重に行う(必要となる補助検査法は少ない)。
    痛みの部位の局所所見、関連領域の神経学的所見、全身状態など  
  • 特定の治療を必要とする緊急事態を除外する(例えば、イレウス、病的骨折)。

VII.鎮痛薬の役割と使用法の基本原則

 適切な鎮痛薬を適切な量と適切な時間間隔で用いると、がん患者の痛みの大多数は消失する。

1.持続性の痛みに対する鎮痛薬使用にあたり守るべき5つの基本原則
  1. なるべく経口投与する。
    経口投与は簡潔で、患者が他人の手を借りずに実施でき、患者の自律性を助ける。
    経皮、坐剤、注射などの投与経路は経口投与が不適切な場合に用い、また、オピオイド・ローテーションのため必要となることのある投与経路である。
  2. 痛みの強さに相応した鎮痛効力の薬を選ぶ。
    WHO三段階除痛ラダーに従う(図4−1)。ある薬が効果不十分なら一段階あるいは二段階強い効果の薬に切り替える。
  3. 除痛に必要な個別的な量を患者ごとに求める。
    どの患者にとっても安全な少量で開始し、鎮痛効果と副作用を観察しながら増減調整し、次回投与時刻まで痛みが消失する量を求める。この量には個人差があり、しばしば教科書的な標準投与量よりも多くなる。
  4. 時刻を決めて規則正しく投与する。
    頓用方式の投与は避け、痛みが再発する1時間前に次回分を投与する定時方式とする。
  5. そのうえで、次の点にも留意する。
    ・鎮痛薬の副作用の予防策を併用する。
    ・次回投与時刻前に痛みが再発したときには、直ちに1回分を臨時追加量(rescue dose)として投与し、次回分も休まず予定時刻に投与する。また、臨時追加量投与の回数に応じて次回処方分を増量する。
    ・適応があるときには鎮痛補助薬を併用する(29頁参照)。
2.医療用麻薬の取り扱い
  • モルヒネなど麻薬に指定されている薬を処方するには、麻薬施用者の免許が必要である。
  • 麻薬施用者等には、麻薬の管理と施用、払い出し等の記録および事故等についての届出などが義務付けられている。この義務は麻薬の不正使用を防止するためのものであって、医療目的の麻薬使用を抑えようとするものではない。これらに必要な所定の手続きは都道府県の薬務主管課で容易に行うことができる。
  • モルヒネ等の投与には、量および投与日数、投与経路についての規制はなく、医師の判断により行える。
  • 一枚の処方箋で14日分までの処方が可能である。14日は保険医療上の制約である。
  • 在宅ケアに必要なモルヒネ等の麻薬については、院外麻薬処方せんに基づいて患者に身近な調剤薬局から交付されることが望ましい。
    注)医療用麻薬の管理や調剤の詳細については、75−76頁の参考文献に示したマニュアルを参照のこと。
VIII.鎮痛薬の使用法の実際

1.鎮痛薬の選択基準
  • 痛みが軽度なら非オピオイド鎮痛薬を選択し、適切量に向けて増量する。
  • これが効果をあげない痛みにはオピオイド鎮痛薬を選択する。痛みが軽度から中程度なら弱オピオイド鎮痛薬を選択し、中程度から高度なら強オピオイド鎮痛薬を選択する。
  • 鎮痛効果の増強につながるので非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬の併用が望ましい。しかし、2つのオピオイド鎮痛薬の併用はまったく無意味である。ただし、速放性製剤のないオピオイドを反復投与中の臨時追加量(rescue dose)には、他のオピオイド(例えば、モルヒネ)の速放性製剤を用いるほかない。
2.非オピオイド鎮痛薬

 代表薬はアスピリンをはじめとする非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンである。アスピリンには副作用として胃の障害などの副作用が多いため、ナプロキセン、インドメタシン、イブプロフェン、ジフルニサル、ジクロフェナックなどのNSAIDsの中から使い慣れたものを選択するとよいが、その場合にも胃の障害には注意する。
  1. アセトアミノフェン(錠、末、坐剤):
    ・抗炎症作用がなく、胃の障害作用もないが、大量投与には肝毒性がある。
    ・投与開始量は、500mg/回。4〜6時間ごとに経口投与する。
    ・1,000mg/回ほどが有効限界。
  2. NSAIDs:例としてナプロキセン(錠、カプセル)をあげる。
    ・100〜500mg/回を8〜12時間ごとに経口投与。
    ・アスピリンより軽度であるが、ほぼ同じ副作用がある。

表4-1 WHO方式がん疼痛治療法の鎮痛薬リスト (WHO 1996から引用)

薬剤群 代表薬 代替薬

非オピオイド アスピリン コリン・マグネシウム・トリサルチレート 1)
鎮痛薬 アセトアミノフェン
イブプロフェン
インドメタシン
ジフルニサル
ナプロキセン
ジクロフェナック
     
弱オピオイド コデイン デキストロプロポキシフェン 1)
鎮痛薬   ジヒドロコデイン
あへん末
トラマドール 2)
     
強オピオイド モルヒネ メサドン 1)
鎮痛薬   ヒドロモルフォン 1)
オキシコドン 2)
レボルファノール 1)
ペチジン 3)
ブプレノルフィン 4)

1) 日本では入手できない薬。
2) 治験中ないし導入準備中の薬。
3) 反復投与は推奨されていないが、他のオピオイド鎮痛薬が入手できない国があるため、表に残された薬。
4) 経口投与で著しく効果が減弱する薬。
注1:非オピオイドの注射用製剤としてはフルルビプロフェンの注射用製剤(ロピオンR)がある。
注2:強オピオイド鎮痛薬フェンタニルは、経皮吸収型製剤(パッチ剤)と注射液が使える(26頁を参照)
3.弱オピオイド鎮痛薬
  1. リン酸コデイン(末、錠;麻薬指定薬):
    ・弱オピオイドの代表薬でアゴニスト。麻薬に指定されている。
    ・経口投与開始量は20〜30mg/回を4〜6時間ごと。
    ・120mg/回がほぼ有効限界。
    ・副作用の便秘は緩下薬(センノシドなど)の併用で防止できる。
  2. リン酸ジヒドロコデイン(末;麻薬指定薬)
    ・経口投与による鎮痛効力はリン酸コデインの1.3倍、鎮咳効力は2倍。
    ・効力比を考慮した量で、リン酸コデインと同じ方針で使う。

    注)トラマドール(治験中)。
  3. オキシコドン(徐放錠オキシコンチンR、速放性製剤は導入準備中;麻薬指定薬)  強オピオイドに分類されているが、少量(徐放錠オキシコンチンRの5〜10mg/回の12時間ごとなど)が弱オピオイドとして有用である。オキシコドンの詳細については、強オピオイドの項(25頁)を参照のこと。
  4. トラマドール(配合注射液があり、経口用製剤は治験中;麻薬非指定薬)。  中枢作用性の合成鎮痛薬で、オピオイドの特性と非オピオイドの特性とを持ち、配合注射薬(クリスピンR)が入手できる。現在治験中の経口用製剤についての海外からの報告によれば、コデインの約2倍の鎮痛効力を持ち、代謝産物にも薬理作用がある。血中半減期は約6時間で、50〜100mg/回を4〜6時間ごとに用いる。副作用として便秘や呼吸抑制があるが、発生頻度は同効量の他のオピオイドよりも少ないようである。
4.強オピオイド鎮痛薬

1)モルヒネの臨床的特徴 (多くの強オピオイドに共通する特徴)
・強オピオイド鎮痛薬の代表薬で、麻薬指定薬。モルヒネをしのぐオピオイド鎮痛薬は未だに開発されていない。
・いくつもの薬理作用があり、痛みに加え、呼吸困難、強い咳や下痢を対象にも使われる。鎮静目的の使用は推奨されていない。
・催吐作用や止痢作用は鎮痛必要量よりも少ない量で現れ、催眠作用や呼吸抑制作用は鎮痛必要量よりも多い量で現れる(図4−2)。これらの作用の出現は副作用となるので、その予防が大切である(表4−2)。
・反復投与しても蓄積傾向がない。
・モルヒネへの反応性には大きな個人差があるが、体内薬物動態が線形のため、投与量の調整が容易である。
・モルヒネなどのオピオイド投与の可否は生命予後の長短ではなく、痛みの強さによって決める。
・有効限界がないため増量すれば必ず効果が増強するが、痛みによっては十分に奏効しないことがある(例えば、神経障害性ないし神経因性の痛み、筋攣縮痛など)。
・肝機能障害、腎機能障害、栄養不良、高齢などはモルヒネの禁忌ではない。しかし、薬剤代謝能低下と反応性の増大を考え、通常より少ない量で開始する。
2)耐性と依存
・耐性(tolerance)がモルヒネなどのオピオイドの臨床使用を妨げることはない。痛みに対する適切なモルヒネ投与では耐性の発生は緩徐であり、発生しても増量で対応できる。
・身体的依存(physical dependence)もモルヒネの臨床使用を妨げない。身体的依存とは、反復投与により薬が体内に長い間存在して作用し続けたため、生体が薬の効果に適応して身体機能を営むようになった結果、薬の効果が急に弱まったり、消失したりすると身体機能がバランスを失って退薬症状が出現する状態をいう。しかし後述するように、モルヒネの長期投与を安全に中止する方法がある(25頁を参照)。



・精神的依存(psychological dependence)とは、薬の特定の薬理効果を体験するために、薬の摂取に強い欲求をもった状態、あるいは欲求のため薬を探し求め、入手しては使用している状態をいう。しかし、痛みに対して適切に用いたモルヒネによっては精神的依存が起こらないことが臨床的に観察されている。そして、最近の動物実験では、痛みがある生体は精神的依存の発生を抑制する機序を持つようになることが示されている。
3)モルヒネの製剤
(1)速放性経口用製剤
 即効性があり、4時間ごとの投与によって効果、副作用、実地上の便宜の間に最適のバランスが得られる。臨時追加量(rescue dose)としても用いられる。
・塩酸モルヒネ末
・塩酸モルヒネ錠10mg/錠
・スティック入り塩酸モルヒネ水溶液製剤(オプソR)

(2)徐放性経口用製剤
 長期反復投与に便宜をはかる目的で開発された製剤である。即効性に乏しい。
・12時間ごとの投与ですむ硫酸モルヒネ徐放錠MSコンチンR10mg錠、30mg錠、60mg錠があり、ほかにカプセル(MSツワイスロンR)や粒剤(モルペスR)も導入されている。
・24時間ごとに投与する硫酸モルヒネ徐放性カプセルおよび粒剤(カディアンR20mg、30mg、60mgカプセルと30mg、60mg、120mg包装の粒剤)があり、24時間ごとに投与する錠剤(ピーガード錠R20mg、30mg、60mg、120mg)もある。他にも導入準備中の製剤がある。

(3) 直腸内用製剤
・8時間ごとの投与ですむ塩酸モルヒネ坐剤(アンペック坐剤R)10mg、20mg、30mg坐剤)

(4)注射用製剤
・1%塩酸モルヒネ注射液(10mg/1ml/アンプル、50mg/5ml/アンプル)
・4%塩酸モルヒネ注射液(200mg/5ml/アンプル)
持続皮下注入等に便宜をはかった製剤で、注入器に装填した製剤もある。

注)塩酸モルヒネと硫酸モルヒネとは臨床的に同効である。
4)モルヒネ経口投与法
・推奨経口投与開始1日量は30〜60mg/日。
・投与開始時から便秘と嘔気の予防策を確実に実施する(表4−2)。
注)1日量5〜10mgなど少なすぎる量で開始すると、患者が鎮痛効果を実感する前に嘔気が現れることがある。動物実験では、50%の動物に鎮痛が得られるモルヒネ量を1としたとき、その0.02量で50%の動物に便秘が、0.1量で50%の動物に嘔気が発現することが知られている。
・速放性経口用製剤で投与を開始すると、徐放性経口用製剤よりも短時間で効果が判定できる。
 速放性経口用製剤は1日量を6分割して4時間ごとに投与する。投与開始後、遅くとも翌日には効果を判定する。在宅患者での効果判定は、往診時だけでなく電話なども活用して行う。
 痛みが残っていて眠気がないなら
→ 30〜50%増量(ただし、30mg/日で開始したときには60mg/日に増量)。
 痛みは消えたが、眠気が強ければ
→ 30〜50%減量。
 以後も効果に応じて30⇔60⇔80/90⇔120⇔180⇔240mg/日と増減調整して次回投与時刻まで痛みが消失する量を求める。
注)標準投与時刻は起床時(午前6時)、午前10時、午後2時、午後6時、就寝時(午後10時)。就寝時に2回分を投与して深夜投与を省く。

・大部分の患者で30〜240mg/日で痛みが消失するが、ときにはもっと増量が必要で1日量が6,000mg以上となる患者がいる。
・痛みが消える量を得たら、徐放性経口用製剤に切り替えると反復投与が簡便化する。
・モルヒネを数回増量しても少しも効果が得られないことがある。そのときには痛みの性状を見直し、鎮痛補助薬の要否を検討する。また、患者の心理状態の検討が必要なこともある。

5)モルヒネの非経口投与法
・直腸内投与:塩酸モルヒネ坐剤(アンペック坐剤R)を経口投与量の2/3量で用いる。
・皮下注射、静脈内注射:経口投与量の1/2量を1日量として皮下または静脈内に投与する。
 4時間ごとのワンショットの注射の反復は避け、持続皮下注入とする。静脈路が確保されている患者では、それを利用してもよい。ただし大量点滴液中にモルヒネを混入するのを避け、モルヒネを小瓶に入れ、もしくは持続微量注入ポンプなどで、側管経由で使用中の点滴セットにつなぐとよい。
・持続注入中に痛みが増強したとき患者自身で臨時追加投与ができるPCA(patient−controlled analgesia)ポンプを用いることもできる。
・硬膜外注入、髄腔内注入
  硬膜外に  モルヒネをはじめとするオピオイド鎮痛薬は多くの薬理作用を持つので、鎮痛に用いるときにも鎮痛作用以外の薬理作用が出現しうる。その出現の予防が必須である(表4−2)。予防策が不十分であると、患者の拒薬につながることがある。 は経口投与の1/10〜15量、髄腔内には1/50〜100量と少量ですみ、鎮痛効果持続時間は長いが、行動制限や感染の危険のため実際に使われることは少ない。

6)オピオイド鎮痛薬の鎮痛作用以外の薬理作用の出現予防策

   モルヒネをはじめとするオピオイド鎮痛薬は多くの薬理作用を持ち、鎮痛に用いるときにも鎮痛作用以外の薬理作用が出現して副作用となるので、その予防が必須である(表4−2)。予防策が不十分であると、患者の拒薬につながることがある。

・嘔気予防策
 モルヒネ投与開始時から中枢作用の制吐薬を併用して嘔気の発生を予防する。制吐薬としてはプロクロルペラジンの併用が推奨されている。  これが効果不十分なときにはハロペリドールに変更する。効果的ではあるが、ハロペリドールの制吐目的の投与は承認適応外の使用となる。オピオイドによる消化管の蠕動低下に基づく嘔気にはメトクロプラミドを用いる。ここにあげた制吐薬にはドパミン拮抗作用があるので、副作用のアカシジア(静座不能症)に注意する。約2週にわたり嘔気がなければ、制吐薬を中止するよう努める。

・便秘予防策
 モルヒネ投与開始時から投与中の全過程において、緩下薬(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど)を平常通りの便通が維持できる量へと調整しながら併用する。繊維成分の多い食事の摂取、必要に応じての浣腸、坐剤、酸化マグネシウムの内服なども併用する。

・その他の薬理作用出現の予防策
 他の薬理作用の発現頻度は低いが、予防策を表4−2に示した。

表4-2 オピオイドの鎮痛作用以外の薬理作用の発現予防策

7)モルヒネの反復投与が不要になったとき
・漸減法により安全に中止できる。まず、モルヒネ投与量を半減し、2〜3日続ける。
・問題がなければ、さらに2〜3日ごとに半減していく。
・30mg/日以下となったら、これを2〜3日続けてからモルヒネの中止に至る。
8)モルヒネ以外の強オピオイド鎮痛薬

 モルヒネの鎮痛作用以外の薬理作用の出現が制御しにくいときには、他の強オピオイド鎮痛薬の同効量に切り替えるとおおむね解決する。このような目的の切り替えをオピオイド・ローテーションまたはオピオイド・スウィッチングと呼ぶ。  オキシコドン、フェンタニルが入手できるようになり、わが国でもオピオイド・ローテーションが可能になった。ことに経口モルヒネと経口オキシコドンとの切り替え時には投与経路の変更がなくてすむという利点がある。

(1) オキシコドン(麻薬指定薬)

・アヘンアルカロイドのテバインから半合成されたアゴニストで、モルヒネのほぼすべてを代替しうる。ヒドロコタルニンを配合したオキシコドン注射液(パビナール®)が導入されていたが、2003年に徐放錠オキシコンチン®が、2007年に速放製剤オキノームが承認され、経口投与が行われている。承認適応は「中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛」である。

・経口投与したオキシコドンは、経口モルヒネの1.5倍の鎮痛効力を持ち、鎮痛作用には有効限界がない。

・速放製剤のオキノームは2.5mgと5mgに分包された散剤であり、6時間ごとに経口投与する(必要なら4時間ごとも可能)。オキノームの定時投与はオキシコドンの経口投与法の基本をなし、また沈痛適切量への増減調整にも適している。オキシコンチン®には、5mg、10mg、20mg、40mg錠があり、12時間ごとに投与する。徐放錠オキシコンチン®投与中に臨時追加量(rescue dose)が必要な時はオキシコンチン®1日量の1/4〜1/6(この量に直近の2.5ないし5の倍数のmg数)のオキノームを用いる。

・オキシコドンはモルヒネ同様の止痢作用を持つので、緩下薬の併用で予防する。催吐作用はモルヒネよりも弱いとされている。

・オキシコドンの鎮痛作用は主として未変化体による。オキシコドンは肝で代謝され、大部分が生物学的活性のないノルオキシコドンとなり、薬理活性のある中間代謝産物オキシモルフォンは微量しか産生されない。このため腎障害患者での眠気やせん妄の発生がモルヒネ投与時よりも少ない。

・オキシコンチンの経口投与法

 痛みが軽度から中程度であって非オピオイドが効果不十分なとき:

  投与開始量は5mg/回を12時間ごと。その効果に応じて増量調整する

 痛みが中程度から高度なとき:

  投与開始量は10mg/回を12時間ごと。その効果に応じて増減調整する

 モルヒネから切り替えるとき:

  経口投与中のモルヒネの1日量の2/3量を2分割した量を12時間ごとではじめ、その効果 に応じて増減調整する

(2)フェンタニル(麻薬指定薬)

・合成アゴニストである。経口投与には不向きな薬なので、パッチ剤(デュロテップR)や注射(フェンタネストR)として使用する。フェンタニルは副作用としての便秘の発生がきわめて少ない。

・フェンタニルパッチ(デュロテップR)は、がん患者の痛みのマネジメントにおいて他の強オピオイドからの切り替えが必要な場合に選択する剤形として承認されており、フェンタニル含有量が異なる次の4種類がある。また、他の形式のパッチ剤の治験が進められている。

   2.5mgパッチ:経口モルヒネ45〜134mg/日からの切り替え用

   5 mg パッチ:経口モルヒネ135〜224mg/日からの切り替え用

   7.5mgパッチ:経口モルヒネ225〜314mg/日からの切り替え用

   10 mgパッチ:モルヒネ投与から10mgパッチに切り替えたとの報告はほとんどない

・デュロテップRは健常な皮膚面に貼付する。貼付部位の加温や圧迫を避け、また同じ部位への貼付の繰り返しを避ける。

・デュロテップR貼付中の臨時追加量(rescue dose)には、同一成分の速放製剤を用いるのが原則で、フェンタニル注射液(フェンタネストR)しか入手できないが、フェンタネストRが使えない場合には、モルヒネの注射液、坐剤、または速放性経口製剤を使うほかない。海外では、口腔粘膜吸収型のフェンタニル速放性製剤などがあり、日本で治験進行中のものもある。しかし、いずれも用量については国際的合意に至っていない。

・そこで、2.5mgパッチ使用時の臨時追加量の目安を示す。この目安による効果に応じた増減調整が必要なことが多い。また、この目安を参考に5.0mgや7.5mgパッチ貼付中の臨時追加量を算定してよい。

   2.5mgパッチ貼付中の臨時追加量のおよその目安:

    フェンタニル注射液(フェンタネストR)の場合は、50μg/回ほどを15〜30分かけた静脈内持続注入、または早送りの皮下注入(注入痛を伴うかもしれないので分割しながらの皮下注入)。 モルヒネ注射液の場合は、1.5〜3mg/回を15〜30分かけた静脈内持続注入、または早送りの皮下注入。 モルヒネ坐剤の場合は5〜7mg/回となるが、便宜上10mg坐剤1個を使う。 モルヒネの速放性経口製剤の場合は、10mg/回。

・デュロテップR使用にあたっての留意点

 72時間ごとの貼付で鎮痛効果が維持できる剤形であるが、初回貼付では十分な鎮痛効果が現れるまでにおよそ12時間かかることへの対策が必要である。痛みが残存あるいは再出現した場合の用量調整にも時間がかかることに留意する。

  → 例えば、MSコンチン錠Rから切り替えるときには、貼付開始時 にMSコンチン錠R1回分を経口投与しておく。オキシコンチンRから切り替える場合も同様である。モルヒネの速放製剤から切り替えるときには、貼付開始時、4時間後、8時間後の3回は速放製剤を経口投与する。

・パッチを剥離してから薬理作用が消失するまでの時間が半日以上と長いことにも留意する。

・剥離した使用済みパッチを誤って舐めたりすると危険な結果をもたらすので、使用済みパッチの処理方法の指導を怠ってはいけない。

・注射用製剤(フェンタネストR)にも、がんの痛みに対する適応が承認され、パッチ貼付中の臨時追加量(rescue dose)として、あるいは持続皮下注入等におけるモルヒネの代替薬として使用される。

 フェンタニル注射用製剤の投与量については添付文書の使用上の注意に「低用量から開始する」となっている。実際には0.25〜0.5μg/kg/hrと少な目を投与開始量とし、鎮痛効果と副作用をみながら30〜50%を目安に増量して至適量を決めるとよい。臨時追加量(rescue dose)としては1時間分を早送りで投与する。

(3)ブプレノルフィン(麻薬非指定薬)

・部分的アゴニスト。経口投与には適さないため、坐剤(0.2mg坐剤、0.4mg坐剤)と注射用製剤(0.2mg/1ml/アンプル、0.3mg/1.5ml/アンプル)を使う。

・いずれも投与開始量は0.2mg/回の8時間ごと。0.2〜0.4mg/回が使われることが多いが、坐剤では1日量4mg付近、注射では1日量2mg付近が有効限界。

・副作用は、モルヒネとほぼ同じ。同じ予防策が必要。

(4)ペチジン(麻薬指定薬)

・合成アゴニストで、鎮痛効力はモルヒネの8分の1。その反復投与は、筋の攣縮、ミオクローヌス、痙攣などの中枢性副作用のため推奨されていない。

(5)アゴニスト・アンタゴニスト(麻薬非指定薬)

・ペンタゾシン(錠、注射用製剤)などがあるが、国際学会等では、副作用の点から反復投与は推奨されていない。

IX.鎮痛補助薬(adjuvant drugs)

 鎮痛補助薬とは、次の目的で痛みのマネジメントに使われる薬の総称である。
・痛みに伴う精神的症状の解消
・鎮痛薬の副作用の予防
・神経障害性ないし神経因性の痛みなどの特殊な痛みの治療
1)痛みに伴う精神的症状に用いる薬
・強い不安にはジアゼパム、ロラゼパム、アルプラゾラム、クロルプロマジン、ヒドロキシジンなど。 ・抑うつにはアミトリプチリン、ノルトリプチリンなどの三環系抗うつ薬。最近は、選択的セロトニン再取込み阻害薬(フルボキサミン、パロキセチン)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(ミルナシプラン)も用いられている。 ・せん妄には抗精神病薬ハロペリドール。
2)鎮痛薬の副作用の防止に用いる薬
・制吐薬、緩下薬など(表4−2)。
3)特殊な痛みの治療に用いる薬

(1)神経障害性ないし神経因性の痛み
 適応や使用法は臨床経験に基づいたもので、痛みへの使用が承認適応外となる薬が多いことに留意する。主な薬を示すが、抗うつ薬などでは抗うつ効果を起こす量よりも少ない量で鎮痛効果が得られる。

 カッコ内に推奨されている投与開始量を示すが、効果に応じて増量調整する。薬の選択順序の国際的な議論は収束しておらず、価格の点からはアミトリプチリン、副作用が少ない点からはメキシレチンが第1選択薬として推奨されていることがある。

・三環系抗うつ薬
 アミトリプチリン(10〜25mg、1日1回経口投与;鎮静作用があるので就寝時に) ノルトリプチリン(10〜25mg、1日1回経口投与;鎮静作用が少ない)
・抗不整脈薬:
 メキシレチン(50〜100mg/回を1日3回経口投与) フレカイニド(50mg/回を1日2回経口投与) リドカイン(注射用製剤3〜5mg/kgを40〜50分かけて静脈内点滴または30〜50mg/時間の持続静脈内ないし皮下注入)
・抗けいれん薬(とくに放散性の痛みに有効):
 バルプロ酸ナトリウム(200mg/回を1日2〜3回経口投与) カルバマゼピン(100〜200mg/回を1日1〜2回経口投与) クロナゼパム(0.5mg/回を1日1〜2回経口投与)
・N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬
 ケタミン(0.1〜0.15mg/kg/時間の持続皮下ないし持続静脈内注入) 。

臨床的に使用が可能である他のNMDA受容体拮抗薬として、アマンタジン、イフェンプロジル、デキストロメトロファンなどがあるが、いまだ研究段階である。

(2)骨転移痛
・非オピオイドやコルチコステロイド(あるいは放射線照射)をオピオイド鎮痛薬と併用する。 ・ストロンチウム89製剤(承認申請中)

(3)脊髄圧迫や頭蓋内圧亢進による痛み
・コルチコステロイド(ベタメタゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン)の大量投与。次いで維持量に漸減する方法で用いる。

(4)消化管の疝痛
 臭化ブチルスコポラミン

X.薬以外の痛み治療法

 薬以外の治療法の多くには次の特徴があり、専門的訓練と専門的設備を必要とするものが多い。
・除痛率は高いが、無効例もある。
・除痛期間には長短があり、永久的に効果が続く方法はない。
・痛みが再発したとき、再施行できるとは限らず、また施行後慢性期に治療しにくい痛みが合併することのある治療法もある(例えば、経皮的コルドトミー)。

1.神経ブロック:支配神経を遮断して除痛する方法で、侵襲は少ない。
主なものは、
・腹腔神経叢ブロック:対象は膵がんなどによる上腹部痛
・サドルブロック:対象は肛門部に限局した痛み
・硬膜外ブロック:対象は体下半部の限局した痛み
・交感神経ブロック:交感神経が関与した痛み

2.脳神経外科的治療法:経皮的コルドトミーや下垂体ブロックなど。

3.放射線照射:骨転移痛を主対象とする。

4.理学療法:マッサージ、リラクゼーション、冷罨法、温罨法、鍼灸などを補助的方法として用いる。

5.心理療法:補助的役割を果たす。痛みに苦しむ患者の心を大きく助けるのは、共感と理解をもって患者と共に痛みと戦う医師や看護師の姿勢であることは言うまでもない。


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