がん緩和ケアに関するマニュアル
■第4章■ 痛みのマネジメント
I.痛みのマネジメントの意義
- がん患者の痛みは消失させることができる症状であり、消失させるべき症状である。
- そのため、すべての診療科の医師が効果的な痛みのマネジメントに取り組むべきである。WHO(世界保健機関)は、「痛みに対応しない医師は倫理的に許されない」と述べている。
- 痛みからの解放はすべての患者が強く望むところである。たとえ予後に限りがあると伝えられた後であっても、あるいは終末期であっても、痛みを消失させると患者は普段の表情を取り戻し、日々を前向きの姿で過ごせるようになる。
II.がん患者の痛みの発生頻度と特徴
- 終末期がん患者の2/3以上で痛みが主症状となり、しばしば複数の部位に痛みが起こる。
- もっと早い病期で、がん病変の治療を受けている患者の1/3にも痛みが発生する。
- 大多数が持続性の痛みである。
- 50%は強い痛み、30%は耐えがたいほど強く、不眠をもたらし、食欲を低下させ、患者の日々のささやかな楽しみから自己実現に至るQOLのすべての側面を妨げる。
- 身体的な原因によって起こる痛みであるが、精神的因子(絶望感、死に対する恐怖、不安、抑うつなど)、社会的因子(病気がもたらす経済面の困難など)、スピリチュアルな因子が加わったトータルペイン(全人的な痛み)となる。
III.痛みの分類
1.原因別分類
- がんの浸潤、転移、圧迫などが直接原因となった痛み
- がん病変の治療に起因した痛み(例えば、手術創瘢痕部の慢性痛、がん化学療法後の神経障害性ないし神経因性の痛み)
- 全身衰弱に関連した痛み(例えば、褥創や便秘に伴う痛み)
- がん自体にもがん病変の治療にも関連のない痛み
2.神経学的発生機序別分類
- 侵害受容性の痛み(nociceptive pain)
・痛覚神経終末への刺激で起こり、鎮痛薬がよく効く。
がん患者にもっとも多い痛みである。
- 神経障害性ないし神経因性の痛み(neuropathic pain)
・神経組織の損傷により、その支配領域に起こる。
鎮痛薬があまり効かないことが多く、鎮痛補助薬(adjuvant drugs)の併用が有効である。
・表在性で灼けるような、しびれるような、放散するような、ピリピリ、ヒリヒリするような、などと表現され、allodynia(衣類が触れただけでも痛みが起こる現象)やtrigger pointを伴うなどの特徴から診断できる。
・多くは侵害受容性の痛みと混在しており(例えば、骨盤内がん浸潤による痛み)、両者への対応が必要である(例えば、鎮痛薬と鎮痛補助薬の併用)。
・ 交感神経が関与した痛みも発生するが、頻度は少ない。神経障害性ないし神経因性の痛みと性状が似ているが、血流分布域に一致して起こる。交感神経ブロックが有効であるが、がん病変の存在が実施を妨げることがある。
IV.痛みのマネジメントの基本方針
- 痛みの訴えには直ちに対応し、痛みを直接対象とした治療を行う。
早期対応には、定期的に痛みの有無を患者に尋ね、体温、呼吸、脈拍、血圧に次ぐ5つ目のバイタルサインとしてとらえ、体温表に記録することが推奨されている。
- 痛みの原因病変の治療中も痛みを直接対象にした治療を併用する。
- 痛みの強さや治療効果の最良の判定者は患者であることを銘記し、患者との意思の疎通を維持し、看護師からの情報にも耳を傾けて鎮痛薬の効果と副作用を追跡し、良きチームワークのもとに治療成果向上を目指す。
- 最初に選択すべき治療法は鎮痛薬による治療である。一部の痛みでは2つ以上の治療法を組み合わせると良好な効果をもたらす。例えば、骨転移痛に対する鎮痛薬と放射線照射の組み合わせである。
- 同僚専門医の助言を早めに求める。
V.痛みのマネジメントの目標設定
治療目標を患者と共に設定し、患者が目標を理解していることが最良の成果につながる。
痛みのマネジメントの最終目標は、痛みの消失が維持され、患者の生活状況が平常に近づくことである。これに向けた段階的な目標は:
まず、痛みに妨げられない夜間の良眠の確保
次いで、昼間安静時の痛みの消失
そのうえで、体動時の痛みの消失
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