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がん緩和ケアに関するマニュアル

■第1章■ 緩和ケア


 がんによる身体的苦しみや精神的苦しみからの解放は人類の大きなテーマである。とくに、がんの終末期においては、症状も深刻かつ多彩であり、多くの患者を苦しめたという歴史がある。がん終末期の悲惨な状況から患者を解放することを目指して努力を重ねた西欧の先覚者による科学と人間愛に根ざした対応法の蓄積が「終末期ケア」の確立につながり、終末期患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の改善に大きく貢献した。

 その成果から近年では、この医療分野をがん医療全般に導入し、病状の進行度にかかわらずすべてのがん患者、さらにその他の慢性疾患患者を対象に実践すべきと提唱され、「緩和ケア」と呼ばれるようになった。その実施には患者を中心に、複数の医療職が力を合わせてケアを行うチームワークが重視される。病院内における実施には医師、看護師、薬剤師等によるチーム医療が必要であり、在宅における実施には病院、診療所、訪問看護ステーション、調剤薬局等の連携が不可欠である。

 改訂された本マニュアルには、がん患者の特徴、病名・病状・予後の説明、痛みなどの身体的諸症状のマネジメント、精神的ケア、日常生活の援助、さらには家族のケアについて記述されており、一部の病院や緩和ケア病棟等においてのみでなく、すべての医療の場で活用できる手引き書となっている。

I.緩和ケアの定義と実践内容

 緩和ケアは、「治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患を持つ患者に対して行われる積極的で全体的な医学的ケア」と国際的に定義されている。ここにおける「治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患」とは、致死的な疾患のみを意味するのではなく、治療に反応しなくなったまま長期間にわたって経過する慢性疾患も含んでいる。
 緩和ケアの目標は、患者と家族にとり可能な限り良好なQOLを実現することにある。このような目標を持つので、緩和ケアは終末期だけでなく、もっと早い病期の患者に対しても病変の治療と並行して実施すべき多くの利点を持っている。

 緩和ケアは、「病むこと」を病態生理学的異常としてのみではなく、患者が苦悩し、家族が打撃を受けるという視点からもとらえ、次のことを実践する。
  1. 生きることを尊重し、誰にも例外なく訪れる「死に行く過程」にも敬意を払う。
  2. 死を早めることも、死を遅らせることも意図しない。
  3. 痛みのマネジメントと同時に、痛み以外の諸症状のマネジメントを行う。
  4. 精神面のケアやスピリチュアルな面のケアも行う。
  5. 死が訪れるとしたら、その時まで積極的に生きていけるよう患者を支援する。
  6. 患者が病気に苦しんでいる間も、患者と死別した後も家族の苦難への対処を支援する。

II.緩和ケアの実践システム

 緩和ケアは、在宅、入院、デイケアないしショートステイ、コンサルテーション・サービスなどの方法で行うことができる。緩和ケアは、家庭こそがケアの第一の場所であると重視する。

 緩和ケア病棟等の専門施設への入院は、緩和ケアを集中的に実施するために不可欠であるが、専門施設は在宅でのケアをバックアップし、緩和ケアに関する研修の場としても機能する必要がある。将来は、デイケアやショートステイが在宅では実施しにくいケアを補うとともに、在宅患者の介護にあたっている家族の休養を目的としても活用されるようになろう。

 緩和ケア病棟等の専用施設がない場合においては、病院内に緩和ケア専門チームをおいて緩和ケアを実施する方法がある(コンサルテーション・サービス)。各診療科に入院中および外来通院中の患者の緩和ケアについて専門的立場から相談に応じ、指導する方法である。


もくじ